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「おじさん。……一番先に伝えておかなくちゃいけないことがあるの」
再会の喧騒を少しだけ遠ざけ、私はおじさんの目をまっすぐに見据えて言いました。
その一言の重さを察したのか、おじさんの顔から笑みが消え、鋭い勝負師の目に戻ります。
「……岳飛様が、いらっしゃったわ」
おじさんは一瞬、息を呑み、固まりました。
自分が不在の間、金国の密偵との糸が途切れた危惧。それが、この国の守護神自らを動かしたという事実の大きさを、誰よりも理解しているのはおじさん自身です。
「……岳飛殿が、自らここに? お嬢、お前……」
「ええ。柴翊様の導きで、飯店の二階を貸し切りにしてお会いしたわ。
おじさんが金国の密偵とも友好があったこと、そして今、その報告が途絶えていること。
岳飛様は、その『空白』を埋めるために、わざわざ足を運ばれたのよ」
私は、おじさんが熱病で倒れている間に、代筆屋として、そして娘として、その責任をどう引き受けたかを淡々と説きました。
「おじさんの代わりに、私がその『糸』を預かるとお伝えしたわ。
燕青がいない間、その役割は『華翊商会』という器の中に隠し、守り抜くと。
……岳飛様は、私の言葉を信じて、この商会を国の喉元を守る砦として認めてくださった」
おじさんは、真っ黒に焼けた顔を少し歪め、大きな溜息をつきました。
それは落胆ではなく、娘が自分の想像を遥かに超える領域に踏み込んだことへの、驚きと深い安堵が混ざったものでした。
「……そうか。お前が、あの御方と対峙したのか。
俺が海の上で死にかけている間に、この家はただの代筆屋から、国の命運を左右する場所に変わっちまったんだな」
おじさんは、私の肩にポンと大きな手を置きました。その重みは、これまでの「留守番」への労いと、これからの「共闘」への承諾でした。
「お嬢。……よく守ってくれたな。
俺の繋いできた泥臭い縁を、お前が立派な『義』に昇華させてくれた。




