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「……その声、まさか」


筆を走らせていた手が止まりました。表門の方から聞こえてきたのは、潮風をそのまま喉に詰めたような、野太くて快活な笑い声。


黒い顔の帰還


お嬢の独り言

「……燕青おじさん!

熱病で寝込んでいると聞いていたから、もっと青白い顔で運ばれてくるかと思っていたのに。


門を蹴破らんばかりの勢いで入ってきたその顔は、南国の太陽にこれでもかと焼かれて、見事なまでに真っ黒じゃないの。


少し体つきは絞られたみたいだけれど、その眼光の鋭さと、周囲を明るくさせる図太い生命力はちっとも変わっていないわね。


背後には、李美林りびりん様の身の回りのお世話をする張家の方々も、おじさんに感化されたのか、清々しい顔をして並んでいるわ」


「お嬢! 留守の間、ずいぶんと派手にやってくれたようじゃねえか!」


おじさんは、新しく掲げられた『華翊かよく商会』の看板、そして何より、王族の気品を纏って佇む美林様と、その傍らで凛々しく槍を構える花陽かようちゃんの姿を見て、豪快に笑い飛ばしました。


お嬢の独り言

「……おじさん、驚くのはまだ早いわよ。

あんたがいない間に、私は柴翊さいよく様と組んで、財務長官を味方につけ、省倉せいそうを建て、高麗こうらいへの定期航路まで手中に収めたんだから。


おまけに、多才な通訳官の愛蘭アイランさんまで仲間に加わって、ここはもう、あんたが知っていたただの代筆屋じゃないわ」


陽ちゃんが「おじさま!」と駆け寄り、美林様も再会を喜んで優雅に会釈をされる中、燕青おじさんは真っ黒な顔を綻ばせ、私の書房の窓を仰ぎ見ました。


「……なるほど。俺が海の上で死にかけている間に、この家には新しい血が通ったってわけか。


お嬢、お前の筆の力……恐れ入ったよ」


おじさんは、美林様の世話役たちにテキパキと指示を出し、長旅の荷を解かせ始めました。


彼が戻ったことで、燕青おじさんの弟子たち(影)も、どこか安堵したような気配を漂わせています。


「お帰りなさい、おじさん。

積もる話は山ほどあるけれど、まずはその真っ黒な顔を洗ってきなさいな。


今夜は、飯店で宴会よ。

『華翊商会、真のあるじの帰還』……なんてね」


おじさんが持ち帰った南国の熱気と、私たちがここで育てた北への志。

それらが混ざり合い、これから本当の物語が動き出す予感がしています。

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