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「……これほどまでに、一分の隙もないとはね」
数日後、完成したばかりの倉庫に運び込まれる備蓄食糧の列を眺めながら、私は改めて柴翊様の深謀遠慮に息を呑みました。
官の盾、商の剣
運河沿いに並んだ荷車から、米や麦、塩の袋が次々と「省倉」へと運び込まれていきます。それと同時に、政府から派遣された厳格な面持ちの管理官たちが、各所に配備されました。
お嬢の独り言
「……出入検査の厳重さは、まるでお城の門並みだわ。
でも、それがいいの。政府が『自分たちの食糧を守るため』に厳重に警備を固めれば固めるほど、その隣にある私たちの『華翊商会』の荷も、不可侵の聖域になる。
柴翊様は、こちらで独自に警備員を雇う手間も費用も、そして余計な揉め事の種も、すべてこの『官の配備』という形で肩代わりさせてしまったのね。
表向きは政府への忠誠心、実態は最強の用心棒をタダで手に入れたようなもの。
燕青おじさんの弟子たちが、今は影に潜んであくびをしていられるのも、この鉄壁の布陣があるからこそだわ」
管理官たちが木札に筆を走らせ、一袋ごとに検印を押していく。その横で、李美林様は窓口に座り、王族としての余裕ある微笑みを浮かべながら、時折、彼らの仕事ぶりに優雅な労いの言葉をかけています。
「ご苦労様。あなた方のような真面目な方が守ってくださるなら、南国の商人も安心して船を出せますわ」
美林様の一言で、強面の管理官たちの顔がわずかに綻ぶ。
その背後では、陽ちゃんが鋭い視線を崩さず、美林様の盾として、そしてこの「聖域」の最後の番人として静かに控えています。
帰る折、美淋様が、管理官に倉庫内で完熟した物は、出荷出来ないので廃棄処分と記載して処理願いますと声をかけた。
お嬢の独り言
「……私は、新しく届いた船舶の入港記録を整理している。
燕青おじさん。あんたの船がこの港に入る時、もう怪しい役人に袖の下を握らせる必要はないわよ。
政府の管理官が最敬礼で迎え、厳重な警備の下で、あんたの荷は一番安全な場所に運び込まれるんだから。
……熱病は、もう下がったかしら。
あんたが戻ってきたとき、この『完璧すぎる城』を見て、自分の居場所がないなんて寂しい顔をしないでちょうだいね。
看板娘と、最強の護衛と、王族のパートナーが、あんたの帰りを最高の舞台を整えて待っているんだから」
夕暮れ時、省倉の重厚な扉が閉じられ、政府の封印が施されました。
その隣で、私たちの商会の灯りは、かつてないほど明るく、そして静かに輝き続けています。




