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「今夜は、何となくいい夜。」
二日目の夜の静寂
書房には、使い終えた墨の香りがうっすらと残っています。
燕青おじさんは今、羅針盤や海図を届けるために船で海の上。陽ちゃんや燕青の弟子たちは、飯店の営業がすべて終わるまであちらにかかりきり。
裏の部屋からは、文さんたちが『邸報』の版を組む、規則正しい作業の音が聞こえてきます。
お嬢の独り言
「……ようやく、今日の一筆供養の依頼もすべて書き終えたわね。
燕青おじさんがいない代筆屋なんて、本来はこんなに静かなものなのよ。あのおじさんがいると、どうしても余計な騒ぎが持ち込まれるから。
陽ちゃんも弟子たちも、今頃は飯店の片付けで大わらわでしょうね。
熟練の料理人さんたちに絞り込まれて、汗だくで皿を洗っているのかしら。それとも、残った東坡肉の端っこをこっそり分けてもらって、鼻を鳴らしているのか。
あの子たちがいないと、少し手持ち無沙汰だわ。
でも、たまにはこうして一人で、文さんたちの仕事の音を聞きながら、次の『邸報』の出来でも予想しているのが一番落ち着くのかもしれない。
……さて。
あの子たちが帰ってきたら、まずは冷えた身体を温めるためにお茶の準備でもしておきましょうか。
明日もまた、朝からみんなで『肉掛け豆腐』を食べて、淡々と一日を始めるだけだもの」
私は、使い終えた筆を一本ずつ丁寧に洗い、筆立てに並べました。
明日の朝には、また陽ちゃんの元気な声と、弟子たちの慌ただしい足音が戻ってくる。
それまでの短い間、私はこの静かな書房で、今日書き上げた文字の余韻に浸ることにしました。




