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「……林冲様の、お弟子さん?」
陽ちゃんが連れてきたその人は、もう剣は置いて久しいと言いながらも、立ち姿のどこかにかつての面影……風を斬るような鋭さを隠し持っている、そんなお方でした。
今は子供たちや大勢の弟子に武術を教えているというその人が、わざわざ私の代筆屋を訪ねてきたのは、過ぎ去ったあの日々への「決着」をつけるためのようです。
風を弔う文字
「林冲師範の弟子であったことなど、今の臨安では大きな声では言えません。ですが、せめてこの元宵の灯籠に、あの頃を供養する一筆を……今の時代に障りのない形で、記していただけないでしょうか」
お嬢の独り言
「……林冲おじ様。
豹子頭と恐れられたあの槍の達人も、今は歴史の闇に消えた英雄の一人。
その教えを受けた人が、こうして子供たちにその魂を伝えている。
『……分かりました。供養といっても、あまりに悲しい文字は灯籠には似合いませんわ。
それに、あなたが今育てている子供たちの未来を、過去の影で暗くするのも、林冲様は望まないはず』
私は少しの間、墨を磨りながら考えました。
あの人の槍が風を巻き起こしたように、でも、今は穏やかに誰かの背中を押すような、そんな文字を。
『――【清風万里】(せいふうばんり)。
この四文字にしましょう。
どこまでも清らかな風が吹き抜け、偏ることなく万物を潤す、という意味よ。
林冲様の武術が、形を変えて今の子供たちの健やかな成長を支えている。
その静かな誇りを、この風という文字に込めるの』」
陽ちゃんは、その人の腰つきをじっと見ていましたが、私と目が合うと、少し照れたように笑いました。
「ねえさま、良い文字ですわね。
このお方の弟子の方々も、きっとこの文字を見れば、背筋が伸びる思いがするはずです。
……私も、いつか林冲様の武術を受け継ぐ子供たちと、一手合わせてみたいものですわ」
「陽ちゃん、今日はお店の方が忙しいんだから、武者修行の約束は後になさいな」
私がたしなめると、そのお方は深く頭を下げ、満足そうに微笑みました。
「ありがとうございます、蓮華様。
これでようやく、胸のつかえが取れました。
……子供たちには、剣の鋭さではなく、この風のような清々しさを教えていこうと思います」
お嬢の独り言
「『お代はいらないわ。その代わり、帰り道に華顧飯店で、弟子の方々にお豆腐でも食べさせてあげて。
あそこの東坡肉は、少し元気が出すぎるかもしれないけれど、子供たちにはちょうどいいでしょう』
燕青おじさん。
あんたがいない間に、私の筆は、かつての仲間の“誇り”まで弔うことになったわ。
でも、悲しい話じゃないの。
みんなこうして、形を変えて、今の時代を懸命に生きているんだから。
さあ、陽ちゃん。
このお方を飯店まで案内してあげて。
……それから、つまみ食いは、ほどほどにね」
静かな昼下がり。
私の書いた「清風万里」の文字は、灯籠の紙の上で、今にも風に乗りそうな軽やかさで留まっていました。




