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「……ちょっと、おじさんの弟子たち! そっちの蒸籠が空よ! 早く次を持ってきて!」
元宵節を甘く見ていたわけじゃないけれど、これほどまでとは思いませんでした。運河沿いを埋め尽くす灯籠の光より、うちの店の**東坡肉**を求める人の波の方が、よっぽど凄まじい熱気を放っているんだもの。
不夜城の狂騒、東坡肉の「籤」
お嬢の独り言
「……なぞなぞなんて、優雅なことを言っていられる状況じゃなかったわ。
柴翊様が用意してくれた広大な店構えが、まるで小舟のように人波に呑み込まれそう。
『陽ちゃん! 趣向変更よ! なぞなぞは中止。代わりに、私の書いたこの“福”の紙を引いた人に、無料でもう一個おまけする“くじ引き”にするわ!』
『はい、ねえさま! 箱を持って回りますわ! ……皆さん、押し合わないで! 花家の娘の矢より速く、福を掴み取ってくださいませ!』
陽ちゃんが凛とした声で人混みを捌き、私は飛ぶような速さで追加の『福』の紙を書き殴る。墨を乾かす暇もありゃしない。
それでも手が足りなくて、結局、燕青おじさんが街に残していった弟子たちを全員叩き起こして投入したわ。
普段は闇に潜んで暗躍している『36群星』の卵たちが、今夜は顔を真っ赤にして、汗だくで豚肉を運び、空の器を回収している……。
『おい、お前ら! 燕青の旦那に“お前らは豚肉運びにも使えねぇ”なんて報告されたくなかったら、必死に動きなさい!』
私の叱咤に、弟子たちが『ひぇっ、お嬢様、承知しました!』と必死の形相で応える。
これ、おじさんが見たら笑い転げるか、あるいは呆れ果てるでしょうね」
祭りの果て、深夜の静寂
ようやく運河の灯籠が消え始め、客足が引いたのは、日付が変わる頃。
店の中には、心地よい疲れと、甘辛い醤油の香りが充満していました。
一日目、用意した東坡肉は完売。くじ引きは大好評で、私の書いた『福』の紙を家宝にすると持ち帰った客までいたとか。
燕青の弟子たちは、床に転がって泥のように眠っている。
陽ちゃんの様子、祭りの衣装は少し乱れているけれど、その瞳には達成感の光。
『ねえさま、私、あんなにたくさんの“美味しい”という笑顔、初めて見ましたわ……。弓を引くのとは、違う高揚感です』
お嬢の独り言
「『お疲れ様、陽ちゃん。あなたがいなきゃ、今頃この店は押し潰されていたわ。
弟子たちも、よくやったわね。明日の朝は、彼らにも最高のご褒美を食べさせてあげましょう。
……でもね。
この熱狂の中に、一組だけ、お肉を一口も食べずに、私の書いたくじの“紙”だけをじっと見つめて去っていった男たちがいたわ。
あれは……趙高官の手の者ね』
勝利の余韻の中に、冷たい棘のような予感が混じる。
でも、今の私たちには、この熱い絆と、美味しい味がある。
燕青おじさん。
あんたのいない臨安は、戦場みたいに忙しくて、そして……最高に面白いわよ。
明日もまた、この街を私たちの味で征服してあげるんだから!』」




