44
「……ああ、あのお料理のことね! 失礼したわ、点心の小籠包と聞き間違えてしまったけれど、東坡肉……あの方、蘇東坡様が発明したと言われる、あのとろけるような豚の角煮のことね」
私は自分の筆を置き、お孫さんたちが持ってきた計画書をもう一度見つめ直しました。臨安はまさに、蘇東坡様がかつて知事として治め、あの美しい西湖を整えたゆかりの地。
そこで東坡肉を看板にするというのは、これ以上ない「正道」にして「最強」の戦略だわ。
とろける秘伝、東坡肉の誘惑
「蓮華様、その通りです! お祖母様(顧大嫂)は、荒っぽい戦場飯だけでなく、じっくりと時間をかけて素材を活かす料理の真髄を、隠居後に極められたのです。この東坡肉こそ、我が『華顧飯店』の魂となります!」
お孫さんたちが熱く語るそのレシピには、梁山泊の豪快さと、臨安の洗練が見事に融合していました。
究極の東坡肉、
厳選された皮付きの豚三枚肉。それを柴翊様が手配してくれた極上の紹興酒と、倉庫にある「沈香」の香りを微かに移した特製の醤油で、数時間かけて煮込む。
箸を触れるだけで崩れるほどの柔らかさと、宝石のような照り。
**「華顧飯店」**は、一階を庶民が饅頭を買い求める活気ある場にし、二階を東坡肉を囲んで密談ができる高級個室にする。
私の文字で書かれた「お品書き」自体が、臨安の食通たちの間で蒐集されるような付加価値をつける。
お嬢の独り言
「……蘇東坡様といえば、流罪になってもその地で美味しいものを食べて詩を詠むような、ある意味でおじさんたち以上に頑丈な精神の持ち主。
そのお料理を看板にするなら、ただ美味しいだけじゃダメ。食べた人が『明日もまた戦おう』と思えるような、力強い味じゃなきゃね。
柴翊様が調理人を手配してくださるなら、火加減の修行は万全。
あとは、私がこの『東坡肉』の伝説を、さらに美しく、あるいは毒っぽく臨安の街に広めるだけだわ。
『いいわ。共同経営、承諾するわよ。
ただし、お肉を縛る藺草の一本にまで、柴家の気品と顧家の誇りを込めなさい。
……陽ちゃん、あなたさっきから、よだれが零れそうよ?』」
陽ちゃんの意気込み
陽ちゃんは真っ赤になって顔を上げましたが、その瞳は期待でキラキラ輝いています。
「ねえさま! 東坡肉なんて……想像しただけで、弓を引く力が倍増しそうですわ!
お店が始まったら、私は店の前で看板娘をしながら、つまみ食い……ではなく、お肉の鮮度をこの鋭い目で見守ります!」
お嬢の独り言
「『ふふ、頼もしいわね。
燕青おじさんが海から戻ってくる頃には、陽ちゃんの筋肉も、この東坡肉でさらに太くなっているかもしれないわ。
さあ、決済完了よ。
柴翊様にすぐお伝えして。
“臨安で一番熱くて甘美な、東坡肉の宴を始めましょう”ってね』」




