表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/154

103

「……ねえさま、もうガマンの限界ですわ! 名前を聞くだけでよだれが零れそうなのに、そんなに楽しそうに蘇東坡様の詩なんて詠じられたら……!」


花陽かようちゃんが、目を白黒させながら訴える姿に、私は思わず笑ってしまいました。確かに、今の華顧飯店かこはんてんに漂う、あの甘辛く芳醇な香りは、どんな高潔な志をも惑わす「魔力」があるわね。


鶏の誘惑、飯店の暖簾のれんをくぐって。


お嬢の独り言

「……ふふっ、分かったわよ、ようちゃん。

そんなに瞳をキラキラさせて、お腹の虫を鳴らされては、代筆屋わたしの名がすたるわ。

今日は趣向を変えて、顧大嫂こだいそうおば様の孫娘たちが切り盛りする本店、『顧飯店こはんてん』へ皆で行きましょう。


華顧飯店の『東坡肉トンポーロウ』の真髄も素晴らしいけれど、あちらの本店でしか味わえない、あのしっとりと黄金色に輝く『蒸し鶏』……。

想像しただけで、陽ちゃんなら弓を引く力が百倍になりそうね」

私は、美林びりん様と、いつも健気に付き従ってくれる**愛蘭あいらん**に声をかけ、臨安の活気ある路地へと足を踏み出しました。


お嬢の独り言

「……美林様、お待たせいたしました。

王族の洗練されたお口にも、顧大嫂おば様から受け継がれたあの素朴で力強い滋味は、きっと新しい驚きを与えてくれるはず。

愛蘭も、今日は遠慮しなくていいのよ。

お孫さんが運んでくる蒸籠せいろの山を、陽ちゃんと競うようにして平らげてしまいなさいな」


顧飯店の暖簾のれんをくぐった瞬間、華顧飯店とはまた違う、鶏の脂と生姜の清涼な香りが鼻腔をくすぐります。


お嬢の独り言

「……ああ、この匂い。

蘇東坡様が『猪肉頌ちょにくしょう』で豚肉を愛でたように、この鶏料理にもまた、言葉にできない『命の躍動』が詰まっている。

燕青おじさん。

あんたが居ない間に、私たちはこうして、美味しいものの絆をさらに深めておくわ。

結局は、この一皿の蒸し鶏を、大切な仲間たちと笑いながら囲む幸せを守るために頑張っているのだから」


陽ちゃんは、席に着くやいなや「ねえさま! 鶏ですわ! 鶏の香りが、私を呼んでいます!」と、涎を拭うのも忘れて、期待に満ちた声を響かせていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ