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「……ねえさま、もうダメですわ。蘇東坡様のあの詩を聴きながら、この甘い香りに包まれていると……お仕事中なのに、お口の中が大変なことになっています!」


ようちゃんは、空の蒸籠せいろを抱えたまま、恨めしそうに二階の階段を見上げました。朱子しゅきの弟子たちが朗々と詠じているのは、あの有名な**『猪肉頌ちょにくしょう』**。

「黄州の好き猪肉ちょにくあたいどろの如くやすし。

富者は食うをらず、貧者は煮るを解らず。

火をすこしくし水をともにし、火候かこうればおのずから美なり……」


お嬢の独り言

「……ふふっ、ようちゃん。

蘇東坡そとうぱ様が詠んだ通りね。『火加減を絶妙にし、時間をたっぷりとかければ、肉は自ずから美味くなる』。


柴翊さいよく様が手配してくれた一級の職人が、顧大嫂こだいそうおば様の真髄を込めて、まさにその『火候かこう』を極めているんだもの。

名を聞くだけで、あるいはあの詩の一節を耳にするだけで、生唾が出てしまうのは、この臨安りんあんに生きる人間の本能というものよ」


二階では、学生たちが「我らもこの肉のように、じっくりと時間をかけて徳を煮詰めねばならぬな!」などと、美味しさのあまり顔をほころばせています。


お嬢の独り言

「……おじさんの弟子たちも、趙長官の部下たちも。

みんな、蘇東坡様の詩に頷きながら、箸を止めることができない。

燕青おじさん。

あんたが帰ってきて、この『名を聞くだけで涎が出る』芳醇な香りに誘われて階段を降りてきたとき。

目の前に広がるのは、かつての殺伐とした風景じゃない。

誰もがこの『東坡肉トンポーロウ』の魔力に屈して、穏やかな顔で詩を口ずさむ、この上なく平和で……そして、たまらなくお腹が空く光景よ」


陽ちゃんはついに我慢できなくなったのか、「ねえさま! 私、ちょっと厨房の様子を『強めに』確認してまいりますわ!」と、自分自身の涎を拭いながら、飛ぶような速さで裏手へと消えていきました。

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