第四十六話「ヴォルデリアの庭で」
ある穏やかな午後、私はカイゼル様と中庭の薔薇の傍に座っていた。
体が少し重くなり始めた頃で、ダンクル氏から「あまり動くな」と強く言われていたが、せめて外の空気を吸いたかった。
「……外に出るなと」
「少しだけです。ここは日当たりも良くて」
「……」
カイゼル様は小言を言いかけて、黙って隣に座った。
二人で、薔薇を眺めた。
「……カイゼル様」
「なんだ」
「あの石碑に刻まれている文字、何と書いてあるんですか?」
少しの間、沈黙があった。
「……「ここは自由だ」と書いてある」
「え?」
「……弟が書いた。この庭が好きで、いつも走り回っていた。自分で文字を彫ったんだ」
「……弟さんが」
「……うん。石碑というより、落書きに近い。俺が消させなかっただけだ」
私は静かに、石碑を見た。
「ここは自由だ」
「……弟さんは、ここが好きだったんですね」
「……ああ。こういう場所が、また出来てよかった」
そう言って、カイゼル様は薔薇に視線を戻した。
「……ヴォルデリアも、生まれてくる者に——自由な場所を、渡せると思う」
私は、静かに頷いた。
そして、薔薇の一輪を摘んで、石碑の前に置いた。
「あなたが好きだったこの場所、今もずっと綺麗ですよ」
と、心の中で話しかけながら。
第四十六話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
石碑の「ここは自由だ」という文字——ただの落書きが、三百年後も守られているんですね。
カイゼル様の「ヴォルデリアも、生まれてくる者に自由な場所を渡せると思う」は、この物語で一番好きな台詞の一つです。
次回もお楽しみに!ブックマーク・評価お待ちしています✨




