第四十三話「カイゼル様の変化」
ある日、城の古参の魔族・ヴァルが遠征から帰ってきた。
彼は五年ぶりに城に戻ったという。
城門をくぐって、まず庭を見た。
薔薇が咲いていた。
廊下を通った。
床が、月のように光っていた。
厨房の前を通ると、温かい料理の香りがした。
そして食堂で——カイゼル様が笑っていた。
ヴァルはその場に止まった。
「……その顔は、初めて見た」
カイゼル様が気づいて、表情を戻した。
「……戻ったか。報告は明日でいい」
「……いや、その前に聞いてもよいか。何があった」
「……何もない」
「かなりあっただろう」
ちょうどそこに、私がお茶を持って食堂に入った。
「カイゼル様、お茶です——あら、お客様ですか?」
「……ヴァル。五年ぶりだ」
「……この方は」
「俺の番だ」
ヴァルはゆっくりと私を見て、それからカイゼル様を見た。
「……おめでとうございます」
「……ああ」
「……城が、変わっていました」
「……そうか」
「……いい変わり方です」
カイゼル様は、それには何も答えなかった。
ただ、私が置いたお茶のカップを、静かに手に取った。
ヴァルは後で私に言った。
「……あの方が、こんなに穏やかになられるとは思いませんでした」
「……そうですか?」
「……はい。まるで、長い旅が終わった人の顔をしています」
第四十三話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
「長い旅が終わった人の顔」——この言葉、すごく好きだなと思いながら書きました。
カイゼル様にとっての「旅」は、弟の死から始まった長い孤独だったのかもしれません。
それが、ルナちゃんとともに終わった。
次回もお楽しみに!ブックマーク・評価お待ちしています✨




