第四十二話「ゾルク様の誤算」
城でのある朝のことだ。
ゾルク様が廊下で誰かとぶつかった。
「……む」
倒れかけた相手を咄嗟に掴むと、それは見知らぬ子どもだった。
真っ黒い髪に、赤みかかった目。
猫耳がついている。
「……お前は誰だ」
「ニャル! ルナ様のとこに用があるにゃ!」
猫族の子どもだった。
ぴょん、と跳ねてゾルク様の手から逃れ、廊下を走り去る。
「こら待て!」
ゾルク様が追いかけると、その子は厨房に飛び込んだ。
「ルナ様! 今日もお菓子作る?」
「あら、ニャル。おはようございます。今日は……そうですね、クッキーを焼こうかと思っていましたよ」
「やった!!」
私が笑顔で迎えている。
ゾルク様がこめかみを押さえた。
「……ルナ嬢。この子の素性は」
「猫族の集落の子です。先日、城の近くの川で溺れかけていたのを助けて、それから時々遊びに来るようになって」
「……カイゼル様はご存知か」
「はい。昨日の昼食の時に紹介しました。カイゼル様は「好きにしろ」とおっしゃっていました」
「……あのお方が……」
ゾルク様が廊下の壁に額をつけた。
「……カイゼル様が、子どもを城に受け入れるとは……。五年前ならありえなかった話だ……」
厨房からニャルの「ルナ様! クッキーはいくつ作るの?」という声と、私の「たくさん作りましょう」という声が聞こえてくる。
「……(俺は今日もこの城にいてよかったと思っている)」
ゾルク様は誰にもわからない小声でそう呟いて、巡回に戻った。
第四十二話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
猫族の子ニャル登場!
ルナちゃんが自然に子どもを迎え入れて、カイゼル様が「好きにしろ」と言える存在になった……本当に城が変わりましたよね。
ゾルク様の「(俺は今日もこの城にいてよかった)」がお気に入りです笑
次回もお楽しみに!ブックマーク・評価お待ちしています✨




