第三十六話「婚礼の準備」
魔王城が、にわかに活気づいた。
ゾルク様が先頭に立って指揮を取り、城中の者が何らかの形で準備に関わった。
竜族は城の上空を飾る炎を練習し。
妖精族は花輪を編み。
吸血鬼族は舞踏の準備をした。
「……ルナ嬢、衣装の採寸を」
「はい」
ミア——吸血鬼族の侍女——が、私を仕立て部屋に連れて行った。
白い生地が並んでいる。だが魔界の白は人間界より深く、月の光のような光沢を持っている。
「……これにしてはいかがですか」
ミアが差し出したのは、比較的シンプルなデザインのドレスだった。
ただ、裾に向かうほど黒みがかっていく独特のグラデーションが入っている。
「……魔界と人間界の境、という意味で染めました」
「……素敵です」
「カイゼル様が素材を指定されました。貴女に合うものをと」
私は少しだけ、その言葉を噛み締めた。
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一方のカイゼル様は、執務をこなしながらも——城の廊下に一人立って、何かを考えている場面を何度か目撃した。
「……なんの準備をされているんですか?」
ゾルク様に聞くと、少し間があった。
「……言うな、と言われているが……式の誓いの言葉を考えているんだろう」
「……カイゼル様が?」
「三十回くらい書き直しているのを見た。俺には見せてくれないが」
私は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「……見てしまいましたか?」
「いや。一切。あの方が、あれほど悩んでいるのは初めて見たが」
ゾルク様は、遠い目をして微笑んだ。
「……ルナ嬢。あなたは本当に、大切なものを貰ったんだ」
第三十六話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
カイゼル様が誓いの言葉を30回書き直している……この不器用さと真剣さのバランス、本当に愛おしい方ですよね。
ゾルク様の「大切なものを貰ったんだ」は、千年以上生きてきた彼だから言える言葉だと思いました。
次回はついに婚礼当日です!お楽しみに!
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