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献身欲求  作者: 畑中みね
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メヴィの手記

 

『忘れないための記録。アルジェブラさんの様子について』


 アルジェブラさんの様子がおかしい。

 以前の彼女は子どもの面倒をみるのが好きで、非番の日はカタビランカの地上にある広場でよく子どもたちと遊んでいた。カタビランカには親のいない子どもも多い。だから優しくて包容力のあるアルジェブラさんは人気者だった。

 でも最近は広場に姿を現さなくなった。どこに行っているんだろうと不思議に思っていたら、どうやら魔導地下街に足繁く(かよ)っているらしい。しかも何か買うわけではなく、薄暗い路地裏や地下水道の近くでぼーっとしている。まるで湿っぽい場所を探しているみたいだ。


 そのせいで私にも構ってくれない。よく休日は義勇兵の寮まで会いに来てくれたのに。今度は私から会いにいってみようか。そう思って軍部に行ったら追い返されちゃった。魔女の関係者を軍部の中に入れるわけにはいかないってさ。

 そういえば軍部でアルジェブラさんの部下と出会った。破弓部隊って呼ばれているんだって。アルジェブラさんは「部下に慕われていない」って嘆いていたけど、たぶん勘違いだと思う。だってアルジェブラさんについて語る破弓部隊の人たちはとっても誇らしそうにしていたもん。いつかちゃんと話し合えるといいね。


 そうだ、『祝福と魔女の家』に連れていってみよう。魔女に関する売り物がたくさんあるから、きっとアルジェブラさんも楽しんでくれるはずだ。エマも誘ったら喜ぶかな。部隊のみんなは……また今度でいいや。誘ったら大所帯になりそうだし。


 ◯


 今日、サルファの祝福教会のシスターにアルジェブラさんを診てもらった。結果は異常なし。少なくとも病気にはかかっていないらしい。シスターは守銭奴だけど実力は確かだから、本当に病気じゃないんだと思う。でもやっぱり変なんだよね。


 色々と考えた結果、とりあえず私ができることを試そうと思った。つまり魔法薬だ。ルル婆から基本的な作り方を教わっているし、学院で錬金術を学んだから一通りの薬は作れると思う。治癒に関する薬は祈祷士じゃないと作れないから効果があるかわからないけどね。


 まずはルル婆秘伝の気つけ薬!

 二首亀の血と帝国人参、沼蛙の肝、それとタロッコの花を順番に混ぜて作った。材料費が痛いけど、その代わりに効果は保証できる。よく戦争前にストレスで吐きそうなポルナード君に飲ませたら別人みたいにやる気を出したから。まあ味はすっごく不味いけどね。私は二度と飲みたくない。


 意気揚々とアルジェブラさんに渡した。でも気つけ薬は役に立たなかった。


 ◯


 他のアプローチを試してみよう。今度は屋敷の本に載っていた魔法薬を作ってみる。その名も『幸せな思い出薬』!

 楽しかった記憶を思い出してくれる魔法薬。原初の魔女がよく飲んでいたんだって。きっとアルジェブラさんも、幸せな記憶を思い出したら元気になってくれるはずだ。


 『幸せな思い出薬』はサルファの魔女が作った薬なだけあって、気つけ薬よりも貴重な材料を使う。特にサルファの獣関連の材料を集めないといけないから『祝福と魔女の家』でたくさん買い物をした。貯めていたお金がどんどん減っていく。本当は買いたかった論文があるんだけど、アルジェブラさんのために我慢した。これも必要な出費だ。


 出来上がった薬を少しだけ舐めてみたら、部隊のみんなで宴会をした記憶が蘇った。無理やり歌わされるポルナード君とか、魔女について熱く語る酔っぱらいのエマとか。たしかにみんなで騒いでいるときが一番楽しいからね。

 残念ながらお母様とは出会えなかった。お母様、私がいなくてもちゃんと生活できているかな。私が全部世話をしていたから心配だ。薬をもっと増やしたらお母様と会えるかもしれない。また今度試してみよう。


 わくわくしながらアルジェブラさんに魔法薬を飲ませた。『幸せな思い出薬』は効果がなかった。


 ◯


 今日は花街に行ってきた。パリータは会うたびに笑顔で抱きついてくる。可愛らしい子だ。料亭の給仕服もよく似合っている。彼女は奴隷として連れて行かれた兄を探しているって言っていたから、見つかったのか聞いてみたけどまだだって。そもそも今は生活するためのお金を稼ぐのに必死で探す余裕がないらしい。

 せっかくだから、落ち込んだ時の解消法を聞いてみた。パリータは「美味しいものを食べたときです!」と元気に答えた。確かにその通りだ。お腹が空いたら気分は沈んでしまう。


 後日、アルジェブラさんを連れて料亭に訪れた。アルジェブラさんは料理が届くなり、ものすごい勢いで食べ始めた。やっぱりお腹が空いていたのだ! 私は嬉しくてたくさん注文した。パリータが「そんなに頼んで大丈夫ですか?」と心配してくれたけど、大丈夫、懐にはもう少し余裕がある。なにせ危険な依頼ばかりフィリップ隊長に頼まれているからね。そのぶん稼いでいるのだ。


 食べ終わるとアルジェブラさんは満足げな顔をした。少しだけ顔色が良くなったけど、結局おかしなままだった。


 ◯


 そういえば、ナヲはあまりアルジェブラさんに懐かない。外に出かけるときは必ずついてくるのに、アルジェブラさんと会うときは逃げてしまう。うーん、何を怖がっているのかな。アルジェブラさんは優しい人なのに。


 あれから色々な魔法薬を試した。帝国産の元気薬。『魔女と祝福の家』で売っていた、落炎鳥の血とか、本物か怪しい命の水。エマにも手伝ってもらって買い集めたけど、どれも大きな効果は現れなかった。どうしたらいいのかな。こんなことならもっと勉強しておけばよかった。自分を励ます方法ならいくらでもあるのに、他人を元気づける方法がわからない。


 人はどうやったら元気になるの? 友人と会ったら? 誰かに褒められたら? ()()()()()()()()()

 わからない、わからない、わからない。


 生き方は全てお母様が教えてくれた。でも大事な人を守る方法は教えてくれなかった。教えてくださいお母様。私はどうしたらいいですか。いつもみたいに命令してください。じゃないと私は……。


 何か知っているかなと思ってルドウィックさんに会おうとしたけど、呼んでも彼は来てくれなかった。肝心なときに手を貸してくれないんだから!


 もっと時間がほしい。できれば屋敷に帰ってルル婆に診てもらいたい。でも世界は私が思っているよりもずっと早く回っている。私が奔走しているうちに融和派が勢いを失い、逆にフィリップ隊長が新しい派閥の党首として台頭した。エチェカーシカはまだ街に帰らない。もうすぐ戦いが始まるぞと誰かが演説をしていた。そんなことを叫ぶ暇があるならアルジェブラさんを治す方法を一緒に考えてほしい。


 しまった、関係のない愚痴を書いちゃった。また新しい魔法薬を試したら日記に記録しよう。


 ◯


 追記:セルマが屋敷に帰っちゃった。でもまた会いに来てくれるって。やった!




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