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献身欲求  作者: 畑中みね


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王城決戦

 

 西方蛮族の抵抗は凄まじかった。なにせ私たちの部隊と西方蛮族との間には途方もないほどの戦力差があるのだ。いくら私の部隊は個人の力が突出しているといえども、一人で何十人という敵を相手にするのは流石にきつい。戦いが始まって数刻、何人の仲間を失ったか、もうわからない。


 敵の主力部隊は祝福軍と戦っているはずなのに、まるで全ての西方蛮族が集まったような圧を感じた。やはり数の利は偉大だ。兵力とは最も単純で効果的な戦略なのだ。


 さらに弱音を吐くなら、西方蛮族が決して弱兵じゃないのも苦しい。戦っている最中も時々、あと数ミリずれていたら……と思うような一撃をもらうことがある。大きな傷は治療薬で塞ぐけど、小さな傷は薬を節約するために我慢しないといけない。おかげで私の体は傷だらけだ。これは勝ったとしてもエマに説教されるな。


「もう少しで外郭を抜ける! お前たち、メヴィに続け! ここを耐えれば勝利は近いぞ!」


 エマが部隊を鼓舞した。本来は私の役目なのに。やっぱりエマって凄いよね。今も死角から飛んできた矢を見ずに斬り落としながら指示を出しているし。しかも当然のように私を守るような立ち位置にいる。それで大きな負傷をしていないってどういうことなのさ。

 対して私は何ができるか、と考えてみたけど、私は戦うしか能がない。敵を斬って、斬って、斬り続けることでしか、部隊に貢献できない。じゃあやっぱり先頭に立つしかないじゃん。


「うん、うん、私は間違っていない……よし! 部隊の指示はエマに任せました!」

「おい、何がよしだ! 待てメヴィ!」


 魔力糸を思いきり広げて前に飛び出した。威力よりも数を重視しながら腐敗の棘を作った。私自身も把握できないほどの、何十という棘が宙に浮かぶ。


「巨大な魔力反応! 総員、防御体勢をとれ!」


 西方蛮族が指揮官を中心にして盾を構える。いいね、真っ向勝負だ。私は期待に応えるように魔力を解放した。直後、宙に浮かんだ棘が一斉に発射される。腐敗の棘は他の魔術と比べて威力が低い。それこそ近づいて刃で斬ったほうが効率的に溶かせる。でも西方蛮族はシャルマーン兵と違って柔らかい鎧を着ているから、腐敗の棘でも簡単に穴が空く。


「ぐぁぁああ! う、腕が……!」

「くそっ、俺を掴むな! その不気味な汁がこっちにまで……ぎゃぁアア!」


 溶けた鎧が肌にくっついた人、肺に穴が空いて声にならない叫び声を上げる人、溶けたまま味方に抱きついて被害を広げる人。一瞬にして目の前が凄惨な光景になった。運よく巻き込まれなかった西方蛮族が、まるで化け物を見るような目で私を睨んでくる。


 こんな視線にも慣れちゃった。昔は、それこそ「メヴィ」になる前はこういう刺すような視線が苦手だったけど、今は部隊のみんなや相棒がいるから気にならない。少し他人とズレていても受け入れてくれる。だから安心してみんなのために頑張れる。


「敵が崩れたぞ! 今が好機だ、総員突撃!」


 よし、突撃だ!

 エマの号令に合わせて突っ込もうとした。でもその前に後ろから首根っこを掴まれた。視線を上げるとエマが怖い顔をしている。


「メヴィ、お前は私の後ろだ。いつまでも最前線にいないで、後方に下がって指示を出せ。お前が隊長なんだぞ」

「ひええ、そんなに怒らないでください。適材適所ってやつですよ。そうだ、これを機にエマが隊長になれば……」

「メヴィ」

「はい」


 ひええ。世にも恐ろしき鬼人を見たり。

 相棒をこれ以上怒らせないために、大人しく後方で魔術をうつことにした。幸い、前線は味方が押し上げてくれている。さっきの攻撃で指揮官が死んだから西方蛮族は混乱しているのだ。


 外郭を抜けて西方蛮族の城内に侵入した。四方八方を敵に囲まれる心配がなくなったおかげで、さっきよりも少しだけ戦いやすくなり、部隊の様子も把握しやすくなった。


「何人残っていますか?」

「想定よりも被害が少ない。あれだけの数と戦ったのによくぞ生き残ったものだ」


 ざっと見た限りで五分の一ほどの隊員が減っている。戦力比を考えたら十分すぎるほど善戦しているのかもしれないけど、それでも、道中で楽しく話した人たちが何人かいなくなっていて、私は悲しくなった。私を信じてついてきてくれたのに。たぶん、死体を弔うこともできない。


「さあ、進むぞ。味方の死を無駄にしないために」


 エマに諭されたから、ぶんぶんと頭を振って意識を切り替えた。悲しむのは全部終わってからにしよう。今は前だけを見ないと。

 西方蛮族の城内は想像よりも広い。横幅だけでもサルトリア魔術学院の倍ぐらいある。天井も高く、見上げると西方蛮族を題材にしたと思われる絵が描かれている。もっとも、後方から敵が押し寄せているから呑気に眺める余裕はない。


「このまま上を目指します。トールマンは斥候を集めて前へ。騎士隊は後方にまわって魔術士を守ってください!」


 前方、つまり城内からも敵が現れるけど、追撃してくる敵に比べたら数は少ない。斥候部隊と魔術士隊に任せて大丈夫だと思う。私は前方と後方をどちらも援護できるように中間あたりで指示を出す。

 同士討ちを恐れてか、敵から飛んでくる魔術が減った。まあこんな場所で魔術をうちまくれば崩落する危険があるから、普通は危なくて魔術をうてない。

 私はどうかって? そりゃあうちますとも。だって前に出ようとしたら怒られるもん。腐敗の棘で援護するしかない。

 もちろん崩落しないように気を使っている。でも私の腐敗って床とかも溶かしちゃうから、急がないと本当に城が崩れちゃうかも。敵もそれを恐れてか勢いが落ちている。こちらとしてはありがたい。


 私たちは城内を駆け上った。道中で侍女や使用人らしき人たちもいたけど、関係なく溶かした。だって使用人に扮した魔術士かもしれないから。疑わしきは殺すしかない。そのたびに後方から感じる敵意が膨れ上がったけど、私たちは構わずに進んだ。


「メヴィ隊長、行ってください……! 死ぬときは、誰かのために……!」


 進むしかなかった。前へ、ひたすら前へ。立ち止まれば全てが無駄になるのだ。斬って、溶かして、敵の屍を踏み越え、時には倒れた味方を見捨て、前に進んだ。


「なんだこいつ、死にかけのくせに……!」

「気をつけろ! 敵は下半身を失ってもしがみついてくる! 確実に息の根を止めるんだ!」


 また一人、誰かが身を挺して敵の足止めをした。味方の命を使って私たちは進んだ。

 ああ、悲しいことだ。とても、とても悲しいことなんだけど、同時に誇らしく思った。みんなが私の言葉を覚えて、部隊のために身を尽くしている。

 奉仕せよ、奉仕せよ。死ぬときは、誰かのために死になさい。

 やはりお母様の教えは正しいのだ。身を尽くせば愛してくれる。奉仕することで存在価値が生まれる。


「総員、前へ! 私たちの底力を見せつけてやりましょう!」


 私は吠えた。みんなも吠えた。さあ往くぞ。全ての敵を討ち滅ぼそう。私たちならできる。互いに支え合う私たちならば。

 やがて前方に大きな扉が見えた。王の間だ。ここに敵の総指揮であり、西方蛮族の王、ロネ・ドロシーがいるはずである。


「エマはみんなを指揮して足止めをしてください。ロネは私が討ちます」

「む……わかった。後方の追撃は、我々で止めよう」


 若干納得していなさそうなエマ。私一人で行くのを止めたいけど、追撃の足止めもしないといけないから渋々了承したって感じかな。


 斥候部隊が大扉を開けてくれた。部隊の指揮をエマに預けて、私は王の間に駆け込んだ。中は意外と質素な造りだ。無数の石柱が並んでいるけど華美な装飾はなく、本当にここが王の間かと疑いたくなるほど殺風景である。

 そんな王の間の奥にロネがいた。彼は私に背を向けて窓の外を見下ろしている。


「来たか、輪廻の弟子」


 ロネが振り向いた。彼の姿は戦場で何度か見たことがある。ピッチと同じ銀色の髪に、気の難しそうな鋭い目をし、いつも偉そうな態度で立っていた。

 でも、今目の前にいるロネは雰囲気が違った。憑き物が落ちたように静かな表情で私を見ている。気を引き締めないといけない。これは、多分、覚悟を決めた顔だ。後戻りができなくなった人の、全身全霊を込めた決死の顔なのだ。


「この部屋にパラアンコ人が入るのは初めてだ。今日はカーリヤ史に残る悲劇の一日となるだろう」


 よく見ると、ロネの首元に奇妙な塊がついている。最初は小さなコ(・)ブ(・)だった。でも、ロネが話しているうちに吹き出物みたいなコ(・)ブ(・)はどんどんと大きくなった。


「そして俺は無能の王として語られる。まったく、王とは本当に損な役回りだ。まあ、それも西方蛮族が存続すれば、の話だが」


 私は気づいた。アレは菌糸だ。兄の体を苗床にすることで、ピッチはまだ生きているのだ。

 ロネの首元に寄生した菌糸が急速に膨れ上がり、彼の左半身を飲み込んだ。ブヨブヨとした菌糸が徐々に少女の頭に変わり、ロネの左肩からピッチが生えた。目は閉じているし、口も塞がっている。でもあれはピネ・チェア・ドロシー。

 なんという生命力。あのとき旧市街で確実に殺したはずなのに。そういえばピッチに勝っても呪痕が成長しなかった。まさか最初からロネに体の一部を寄生させていた? 本体が死んでも魔女は死なない?


「始めようか。俺はドロシー王家の最後の末裔、ロネ。そしてコレは魔女に人生を狂わされた、愚かな妹だ。輪廻の弟子よ、我ら兄妹の力にひれ伏すがいい」


 戦場で一度も抜かれなかった、ロネの刃が私に向けられる。伏せられていたピッチの瞼が開き、白濁した瞳と目が合った。ピッチの意識が残っているのかはわからない。でも底知れない純粋な敵意が覇気を伝って私を襲う。エレノアやメルメリィ教授と対峙したときを思い出しながら、私も刃を握った。




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― 新着の感想 ―
とても面白いのに感想少なくてさみしい アルジェブラさん(´;ω;`)かなしみ 菌糸の魔女戦でエマ死亡フラグたってね?→よかった死ななかった! からの流石魔女まだ死んでなかったのか あとナヲが大食…
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