↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
75/105

第75話 答え合わせ

 勇者は退屈を感じていた。

 迷宮探索者が迷宮を踏破したため、迷宮踏破記念式典が行われることとなった。この式典は、過去に勇者自身が迷宮を踏破した時に開催されたのと同じものだ。違うのは褒賞を与えられるのが自分ではないこと。ただ他人が褒められるイベントなど、見ていて楽しいと感じるはずがない。

 本当ならば出席したくもなかったのだが、王国の勇者という立場上出席しなくてはならず、仕方なしに列席している。


 一つ気になっているのは、過去に戻ってやり直し(ロード)する前は、このイベントはなかったということだ。

 気にはなるが、前回のようにすぐに3つ目の迷宮探索に向かわずにいたから多少歴史が変わったのだろうと、勇者は考えている。

 転生者(ロキ)のことも気になるが、実際に会ってみて大したことはないと分かった。本気になれば敵ではないだろう。戦って負ける気はしない。その程度の男だ。

 勇者はそんなことを考えながら、ロキたちに褒美が与えれられる時間をぼーっと過ごしていた。

 ぼーっとしているのだから国王の話も耳に入って来ない。


 そんなふうに勇者がだらけた状態でも式典は滞りなく進み、そのまま何事もなく終わるかと思っていた。だが、ある一瞬で勇者は我に返った。

 それはレオンが獣化をした時だった。

 平均的な人間より一回り以上大きな巨体、黄金の毛並みを持った狼の獣人。

 勇者はその姿に見覚えがあった。忘れるはずもない。それは勇者が過去に戻ってやり直し(ロード)をする羽目になった元凶。勇者をあと一歩で殺すところまで追い込んだ存在だ。


「貴様ああああ!!!」


 気づいた瞬間には、勇者は腰に刺した剣を抜き、レオンへと切りかかってた。


 レオンは左手を上げ、勇者の聖剣を受け止める。

 城内では女神の加護が効かないため聖剣の力が出せない。

 聖剣は硬質なレオンの体毛に阻まれ、傷をつけることはできなかった。

 反撃を恐れ、一歩後ずさり距離を取る勇者。

 式典会場内に緊張が張りつめた。


「何をするのですか勇者殿!」


 式典の進行を務めていた宰相の声が響く。


「こいつは敵だ!レオーネ!結界を解除しろ!


 剣を構えたまま勇者は叫ぶ。結界を解除しろと命令された聖女は、果たしてどうすれば良いのか迷う。結界を解いてしまえば勇者の力を解放するのと同時に、この場にいる魔法使い全員が攻撃魔法を使うことが可能となる。勇者一人の力でさえ制御不能なのに、激しい魔法戦が始まってしまったら、この場にいる人々が被害を被る羽目になる。王族を危険にさらすなどあってはならないことだ。

 だが勇者の立場は強い。勇者の命令に逆らってしまえば、この後ひどく糾弾されることは間違いない。

 獣化した姿のレオンに対して脅威は感じるが、本当に勇者の言葉に従ってよいものか。

 そんな究極の選択を求められ、判断できずにいた聖女の顔はひどく青ざめていた。

 自分の命令に従わない聖女に対し、勇者は再び怒鳴り声を上げた。


「早くしろ!このままじゃ俺たち全員殺されるぞ!」


「俺は誰も殺すつもりはない!」


 勇者の言葉をレオンが否定する。

 勇者の言う通り、今レオンがその気になれば勇者だけでなくこの場にいる全員を殺すことも可能であろう。

 聖女の結界の中であるこの場において、超常の力をふるえるのはレオンただ一人である。

 だかレオンはそんなことをするつもりはないと答える。なぜならレオンは戦いに来たのではない。交渉に来ただけなのだから。


「騙されるな!こいつは王国軍を全滅させたバケモノだぞ!」


「どういうことですか勇者殿?」


 宰相の質問に勇者は答える


「こいつのせいで俺はやり直し(ロード)をするはめになったんだ!」


「勇者殿、ロードを使われたのですか?」


 その事実を知らなかった宰相が驚く。それまで冷静に事態を見守っていた国王も驚きの表情を隠せずにいた。

 勇者はロードしたことを、これまで誰にも話していなかったからだ。


「そうだ。二つ目の迷宮を踏破した時、俺は神殿でセーブを行った。そこから前回の俺は三つ目の迷宮も踏破し、その褒賞として王位を譲り受けた。この国の王となった俺は単調な迷宮探索にも飽きてきたから、今度は戦略を楽しむことにしたんだ」


「戦略を楽しむ……?な、何を言っているのですか?」


 宰相に続いて、それまで冷静を保っていたレオンも驚く。


「楽しむ……だと?」


「そうだ、所詮おまえたちはゲームのキャラみたいなもんだ。何をしようが俺の勝手だろう。俺が王になって世界侵略を始めたのに、てめえら狼たちのせいでいきなり王国軍を全滅させられたんだ。クソくだらねえ……」


「おまえ……そんな気軽な気持ちで俺の仲間たちを殺したのか……」


「おい!レオーネ!!!早くしろ!結界の解除しろって言ってんだろ!」


 レオンの怒気に怯み、勇者は再び聖女に結界の解除を命じた。だが聖女レオーネは怯えながらもその指示には従わない。


「レオーネ!」


 萎縮し額から滝のような冷や汗を流す聖女レオーネ。


「何度も言わせるな!俺は誰も殺す気はないと言っているだろう!」


「レオーネ!」


 度重なる勇者からのプレッシャーに聖女はガタガタと震えだした。


「そこまでだ勇者ダイジロー!」


 そう言って聖女を責める勇者を止めたのは、国王だった。


「聖女レオーネよ。結界を解く必要はない。レオンは先ほどから一貫して、我々を傷つける気はないと言っている。この姿にさせたのも余の指示だ。だからダイジローよ、警戒を解くがいい」


 国王の言葉に頷き、跪く聖女レオーネ。

 だが納得がいかないのが勇者だ。


「だけど王様よ!こいつはたくさんの仲間を殺した前科があるんだ!」


「たとえそうだとしても、レオンは今は戦う意思はないと言っているのだ。剣を収めよダイジロー」


「ふざけんなよ!こいつは俺の目の前で兵士たちを次々と殺していったんだ」


「それはお前が兵士たちを盾にしたからだろう!」


 勇者の一方的な言い分にレオンも言い返す。だがその言葉を聞いた勇者はニヤリと笑った。


「ほら!認めたな!貴様もやっぱり俺のロードで時間を遡ったんだな!」


「それは本当なのかレオン?」


 その国王からの問に対し、レオンは正直に答えた。


「はい。俺はそこにいる勇者が率いる軍勢に里を襲われ、戦い、そして勇者の言うロードという魔法によって一緒に過去にさかのぼりました」


「なるほど。そして今度は同じ過ちを起こさせないよう、迷宮を踏破し、その褒美として今度は狼の獣人の里を襲わせないよう余と約束をしたということか」


「はい。その通りです」


「ふざけんな!そんなのが通ると思うか!」


 激昂する勇者、だが国王はそんな勇者の思いとは逆の言葉を告げる。


「レオンよ。繰り返すが、今後王国から他国への侵略を一切行わない。そしておまえたち獣人族への偏見を無くすよう努力しよう」


「ありがとうございます」


「国王!」


「勇者殿!それ以上の国王陛下への無礼、いくら勇者殿とはいえ処罰の対象ですぞ」


「ああ?」


 納得のいかない勇者は、宰相から態度を咎められ、さらに怒りを増していた。

 それに対してレオンは、当初の目的を達成したことに対する安堵の表情を見せる。

 そしてそれはロキたちも同じだった。

 ロキは聖女による結界の解除の可能性は想定していた。もしも結界を解かれた場合は、すぐにアルマに結界を再構築するよう指示してあった。だがアルマの能力を神殿に知られたくないため、それは最終手段であった。もしもアルマにも聖女としての能力、神威代行魔法の行使ができると神殿勢力に知られたら、アルマの身柄を引き渡すよう要求される可能性があったからだ。

 結果としてアルマの出番は無く、そしてレオンの要望が通るという、最善の結末を迎えたと思った。この時点ではそう思ったのだ。


「納得いかないようだなダイジローよ」


「当たり前だろう!何度も言うが、そいつはこの国の多くの兵士を殺したんだぞ」


「ふむ……、」


 少し考えるそぶりを見せる国王、そしてレオンへ尋ねた。


「今のダイジローの言葉、間違いはないかレオンよ?」


「?……ああ。その通りだ。俺は俺たちの里を襲った兵士たちを殺した。だがその兵士たちは時間を遡った今は、全員生きているはずだ」


「我が王国の兵士を一度でも殺したことは認めるのだな?」


「そうだ」


「分かった。それではレオンよ。貴様を殺人の罪で投獄する。これで文句はないな勇者よ?」


「お?」


「ちょっと待て!」


 それまでずっと黙って見守っていたロキだったが、国王の突然の掌返しに口を挟まずにはいられなかった。


「さっきまでレオンの要望を聞いてくれてたじゃないか!突然何だよ!」


 焦るロキ。その姿を見てニヤつく勇者。

 ロキの言葉に国王は答える。


「その通りだ。レオンの要望は聞き届けた。何度も言うが、我が王国から侵略戦争をしかけることはないし、獣人族への偏見を無くすための努力はする。その上で、レオンを殺人罪で投獄する。そういうことだ」


「だから何でだよ!殺人をしたのは時間をやり直す前の歴史で、それに侵略戦争から自分たちを守るためだろうが!言ってることが滅茶苦茶だろうが!」


「待てロキ!」


「レオン?」


「国王よ。その条件でいい。俺は投獄されようが、里の皆が無事ならばそれでいい」


「レオン!」


「レオンさん!」


 ロキだけでなく、アルマやココロたちもレオンを心配する。

 そんなロキたちを見て満足したのか、勇者が笑いながら勝ち誇った。


「その狂犬を二度と外に出ないよう鎖でつないどいてくれ。ククク……」


「てめえ!ふざけんなよ!」


 今にも勇者にとびかかろうという勢いのロキを、レオンが片手を出して制止する。


「いいんだロキ。ありがとう」


「レオン……」


 迷宮踏破記念式典はそのまま終了となった。この後予定されていた城下へのパレードもロキたちの意向で中止となった。

 国王によって投獄の言い渡されたレオンは、そのまま牢獄へと連れ去られて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。