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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 2 なぜか世界の命運を担うことになった迷宮探索者の憂鬱
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第74話 迷宮踏破記念式典

 大広間の中央には一段高い国王の玉座へと続く赤絨毯が縦断していた。

 絨毯の左右には、この国での重要人物たちが整列している。

 勇者は王族に交じって最前列に、反対側の最前列には聖女をはじめとした神殿関係者が並んでいた。

 そしてその後ろには貴族や王国の要職者が並び、最後部である入口の横にはロキやギルド長たちが待機し、式典が始まるのを待っていた。


 この大広間に入るにあたり、ロキたちは全ての武器を取り上げられた。

 また王城内では魔法は一切使えない特殊な結界が張られているという。

 魔法どころか、勇者ですらその力を十全に発揮できないほどの結界だという。

 そのため国王を前にロキたちが暴れることはできないが、勇者の方ももちろん暴れることはできない。

 これはロキたちにとってマイナス要因ではない。交渉の場としてはこれ以上ない条件だ。


 迷宮踏破記念式典の出席者が全員入場し終わると、まもなくして台上に国王が入場してくる。

 黄金の刺繍がほどこされた派手な赤いマントを羽織り、頭上には黄金の冠を被っている。長いひげを携え、深い堀の奥から覗く鋭いまなざし。まさにトランプのキングのカードといった雰囲気の姿だった。

 国王が玉座に着席すると、横に立つ宰相が高らかに迷宮踏破記念式典の開催を宣言する。

 そして宰相によって、ロキたちの名が呼ばれた。


 ギルド長、ロキ、レオン、アポロ、ココロ、アルマの順に赤絨毯を前進し、国王の前にたどり着くと膝をついて頭を下げる。


 国王が面を上げよと言う。

 初めて会う国王。ロキはその人相を確認する。


 国王から迷宮踏破を祝う言葉を贈られた後、前もって打ち合わせしてあった通りに、順番に褒美を下賜されることとなった。

 まずはギルド長が壇上へと呼ばれる。


「迷宮都市ファナティクス、アムトラ迷宮探索者ギルド長ジョン・ジョー。そなたへは国家功績勲章を授与し、報奨金1000万セルを与える。またアムトラ迷宮の踏破による閉鎖に伴い、そなたを王都迷宮探索者ギルド本部への転属及び迷宮探索者ギルド本部監査官への就任を命ずる」


「はっ!ありがたき幸せ」


 国王より、ギルド長の胸に勲章が授けられた。

 また迷宮探索者ギルド本部への転属は昇進となる。

 普段ポーカーフェイスで通っていたギルド長も緊張を隠せていない。

 そんな彼の姿を見て、ロキは横のレオンに呟く。


「ギルド長ってジョン・ジョーって名前だったんだな。初めて知ったよ」


 レオンは苦笑いを浮かべる。

 ギルド長が下がると、代わってアルマが壇上へと呼ばれた。


「若き回復術師、アルマよ。そなたは港町の商家の出と聞いた。こたびのそなたの働きに関してそなたの両親に感謝状を送ると同時に、そなたの両親の営む商家と我が王家との取引を開始させてもらうこととする」


「えっ?それって実家のお店が王室御用達になるってことですか?」


「フハハ、そういうことだ」


「あ、ありがとうございます!」


 おそらく連絡が届くとアルマの実家は大騒ぎになるだろう。

 またアルマにも報奨金と一代限りの爵位である騎士爵を叙爵された。

 続いてココロとアポロが同時に呼び出される。


「ハーフリングの国の王女であるココロ、そしてその従者アポロ。ハーフリングの国の二人が、我が人間族の王国への貢献してくれたことに感謝する。これまで正式に国交のなかったハーフリングの国と、対等な立場で国交を開始させてもらうこととする」


「はい」


「ひ、姫様!これは大変な話ですよ!」


「そうなの?」


 慌てるアポロと、何が起こっているか理解できず平常心のココロ。

 二人にも報奨金が与えられたが、国籍が王国にないため叙爵はされず、ギルド長と同じく勲章が与えられた。

 そして次はロキの番となった。


「四大精霊魔法を操る大魔導士、ロキ。そなたは過酷な条件で探索者が働くのに心を痛めていると聞いた。そこでそなたの希望に沿えるよう、迷宮探索者ギルド内に労働基準監督局を置くこととし、探索者の労働力をレギオンが過剰に搾取しないよう監督してゆくとなった」


「えっ?本当ですか?」


「労働環境の監督はそなたの希望と聞いているがどうだ?」


「すごいです。ありがとうございます」


 宮廷魔術師のモールと何度か褒賞の内容についての打ち合わせをしていた時に、ロキがいろいろと話した内容を検討してくれたらしい。このサプライズにロキはすこし感動をした。

 そしてロキにもアルマと同じく騎士爵と報奨金が与えられることとなった。


「最後に……勇敢なる戦士レオン」


 最後にレオンへの褒賞が与えられる番となった。レオンはもちろんのこと、ロキも手に汗を握りその瞬間を迎える。


「そなたはパーティの前衛として常に最前線で魔物と対峙し、戦ったと聞く。そんな勇敢なお前が臨むのは、平和だと聞いた。争いは弱者が最も被害を被る。そのようなことが起こらないよう、私が国王として在位している限り、今後王国から他国への侵略を一切行わないことをここに誓おう」


 国王のその言葉を聞き、感慨深い表情を浮かべ深い礼をするレオン。

 逆に国王の言葉に眉をひそめたのは勇者だった。

 ロキはそんな勇者に対して警戒を続ける。

 ロキたちは武装を解除されているが、国王を守るように横にいる騎士は当然武装しているし、勇者も特別に剣を携えている。

 勇者の持つ剣は女神の聖剣だ。何でも切ってしまうというその剣も、女神の加護も効かない結界が張ってあるこの城内ではただの剣だろうが、武装していないロキにとっては危険であることに間違いはない。

 精神的に未熟であるこの勇者が、変な行動を取らないよう気を付けなくてはいけないことは間違いない。

 だが勇者はこの式典に興味がないようで、あくびをしていた。国王の話を聞いてすらいないだろう。

 ロキがそんな勇者に警戒している間もレオンへの褒賞の話は続く。


「そしてレオンよ。おぬしは此度の褒美として余と直接話をしたいのだそうだな」


「はい!」


「発言を許そう。何なりと申すが良い」


 緊張でレオンは息をのむ。その言葉に場内の意識が集中し、短い沈黙が訪れる。

 そしてレオンはゆっくりと話し始めた。


「陛下、この度の褒美についてまことに感謝いたします。そして発言の許可、ありがとうございます。話したいというのは他でもありません。この俺の出自についてに関係することです。俺の希望する平和とは、この国の俺たちへの偏見を無くし、普通の人間と同じように接してもらえるようにしてもらいたいということです」


「ふむ。おぬしの出自とは?一体おぬしは何者なのだ?」


「俺は、王国がヨーブライトの森と呼んでいる森の奥深くに住む、狼の獣人族です」


 レオンが獣人族であることを公表すると、広間にざわつきが広がる。


「獣人族?」

「魔物を城内に入れただと?」

「大変だ!陛下をお守りせよ!」


 そんな言葉が聞かれる中、左右に控えていた全身鎧を着た騎士が、国王を守るかのようにレオンと国王の間に出る。

 だがそんな騎士を国王は制止する。


「下がれ」


 そして慌てふためく家臣たちに対し、国王は告げる。


「静まれ!まだレオンの話の途中だ」


 その言葉で、大広間のざわつきは収まってゆく。

 すぐ横にいる宰相は慌てて国王に進言する。


「ですが陛下、獣人族と言えば野蛮で危険な種族です。この距離で襲い掛かられてしまえば陛下にお怪我を負わせてしまうかもしれません。この者をすぐに取り押さえる許可を」


「ならん!レオンは迷宮を踏破したこの国の英雄だ」


 国王は、その身を心配する宰相の言葉を否定する。


「しかし陛下……」


「レオンよ。おぬしに問おう。おぬしはこの私に危害を加えるつもりがあるのか?」


「いいえ、滅相もありません」


「だそうだ、宰相。獣人が魔物のごとき狂暴だと言う噂は全くの間違いのようだな。そもそも魔物が聖女の結界が敷かれているこの王城内まで入って来れるわけがない。獣人と魔物は全く違うものだということだ。そうだなレオン?」


「その通りです。一部の人々に噂されているのは間違いで、我々獣人族は人間族と変わらない種族です


「命を懸けて手に入れた聖鍵を我が王国へ献上してくれたお前のその言葉、信じよう」


 国王とレオンとのやり取りに場内は落ち着きを取り戻した。

 勇者はレオンの話を聞いていたかったため、先ほどのざわつきの原因が何だったのか分からず、不思議そうに周りを見回している。

 そんな中、国王の言葉は続く。


「お前の期待に沿えるよう、今後お前たちの一族と話し合う機会を設けることにしよう。ところでレオンよ、一つ頼みがある。お前たちは獣化し獣の姿となれるそうだな。お前の獣化した姿を見せてはくれぬか?」


「はい……。わかりました」


 国王から要望され、レオンは上着を脱ぐと、ゆったりとしたブラウスの首元のボタンをはずす。この場にいる一同の視線がレオンに集まる。

 レオンは意識を集中する。

 身長が若干伸び、上半身の筋肉は膨れ上がり、オーバーサイズだったブラウスははちきれそうになる。輝く金色の頭髪と同じように服の下の体全体からも金色の体毛が伸びる。その顔は、鼻先が伸び口は大きく裂けてゆき、ついに狼の顔となった。

 獣化したレオンの姿を見た一同から、おお!という歓声が漏れた後、一人の男の叫び声が聞こえた。


「ああっ!てめえは!あの時の!」


 その声の主は勇者だった。人々がその声を発した勇者の方を見た時、勇者は腰に刺した聖剣を引き抜き、レオンへと切りかかっていた。

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