第54話 理不尽はブラック、それはロキが最も嫌うものです
ロキたちのパーティーの四人とパーシィたちのパーティー四人の合わせて八人を取り囲むように、黒い鎧を着た男こと男爵家三男ロベルトたちならず者パーティーの五人が武器を構えている。
今にも襲い掛かろうとしているならず者たちに、怯えたアドンが口を開く。
「ま、待ってくれ!俺たちはまだ一つも素材を取れてない!俺たちを襲っても何も得られないぞ!だから見逃してくれ!」
アドンはそう言って、両ひざをついて命乞いを始めた。先ほどロベルトに殴られた時のショックが大きいのか、完全に戦意喪失している。
その言葉にがっかりしたロベルトは、顔をゆがめ残念そうにつぶやく。
「はあ?偉そうに言って、てめえらもボウズかあ?ギルドの依頼を達成したらパパに褒めてもらえると思ったのに……」
「だ、だから見逃してくれないか!」
命が助かるチャンスがあると思い、少し期待を込めた表情でそう言ったアドンに、ロベルトはこう答えた。
「じゃあお前らの金目のもんだけもらってよしにするわ」
「待ってくれ!分かった!俺たちの持っているもの全部差し出す!だから命だけは助けてくれ!」
「バカかてめえは!てめえらがギルドに帰ったら俺たちが強盗したってバレるじゃねえか!お前たち全員死ぬことで、迷宮で全滅したパーティーの装備を拾ったって言い訳が成立するんだろうが!」
「ひいいいい!」
命乞いに失敗したことを理解したアドンが悲鳴を上げると共に、その理不尽な考えにロキがため息をついた。
「ほんと、クソだな」
「ああ?!」
「仕事ができないくせにプライドばかり高くて、上手くいかないのは他人のせい。理不尽な言葉の暴力で自分を優位に立たせて、自分だけ気分が良くなって周りの人間を不快にさせる。そして他人の手柄を横取りすることしかできない……」
「てめえ何言ってやがるんだ……?」
明らかにロベルトの行為を非難しているのだが、ロキの頭の中ではロベルトと前世の上司と重ねて怒りのボルテージが高まっていた。
「ココロ、見せてやれ」
「え?」
「リュックの中身を見せてやれよ」
ロキに言われ、もそもそとリュックを下ろし、その蓋を開けるココロ。
ロキはそれをロベルトに見せつけてやると、言った。
「これがアシッドスライムの被膜だ。おまえらじゃ何年かかってもこれだけ取ることはできないだろうな!」
「バカかおまえ!」
そう言ってロキを止めようとしたアドンを、オルテガが羽交い絞めにする。
今ロベルトと交渉しているのはロキだ。仲間たちで考えがバラバラでは危険を伴う。アドン以外の仲間たちは、危険になろうともロキの判断に従おうと考えているのだ。
そしてそのロキの挑発に乗ったロベルトは、手下に号令をかける。
「野郎ども!こいつらを殺してあの素材を奪え!」
「へい!」
ごろつきどもが威勢よく返事をした次の瞬間だった。
「≪岩屑嵐≫!」
ロキが呪文を唱えた瞬間、魔法によって空中に発生した大小さまざまな岩石や砂が、周りを取り囲むならず者たちに向かって襲い掛かった。
悲鳴と共に血しぶきが舞う。その無残な光景を見るに堪えないアルマとココロは目をつぶり、他の仲間たちは唖然としていた。
「風と土の複合魔法……?」
すぐにロキの唱えたその魔法について見抜くパーシィ。
教えた土魔法のストーンバレットを改良されたアポロは、複雑な表情だ。
土煙がだんだんと落ち着いてくると、周囲には血まみれでうめき声を上げながら倒れるならず者たちと、驚き立ち尽くすロベルトの姿が目に入ってきた。ロベルトはその鎧の魔法耐性によって無傷だったが、ロキの唱えた魔法の威力に唖然としている。
そんなロベルトに向かって、ロキはつかつかと歩み寄っていく。
「はっ?!バカが!手下を倒したからって優位に立ったと思うなよ!この鎧には魔法は効かないんだ!それにお前の腰に差してるその細い剣だって通用しねえぞ!」
いきがるロベルトに怯むことなくロキは近づいてゆく。焦るロベルトは剣を正眼に構えるが、ロキは腰に差したレイピアを抜こうともしない。
「こ、このやろう!」
ロベルトも前に出た。剣でロキを切りつけようとするが、その大振りな雑な剣筋は簡単に見切られ交わされる。そして手首をつかまれひねり上げられた。
「あだだだ……」
腕をねじられる痛みに声を上げる。それ以上曲がらないところまでねじ上げられると、手に持った剣を掴んでいることができなくなり、手からこぼれ落ちる。剣を手放したことを確認したロキは、ロベルトを乱暴に突き飛ばした。
尻もちをついたロベルトは、慌てて立ち上がる。ずんずんと向かってくるロキにビビりながら、なんとかロキを止めるために声を上げる。
「俺がこの鎧を着ている限りダメージを受けることはないんだよ!お前の攻撃なんか……」
ロベルトが話していてもロキは止まらない。両手を構えるとロベルトに殴り掛かった。
掌底でロベルトの胴を殴る。頑丈な鎧を殴るのではなく、その鎧の下のロベルトの体に衝撃がいくように打撃を押し込む。
「うぐっ!」
鎧には傷一つ付かないが、その中に衝撃が伝わると当然痛みはあり、ロベルトは殴られた腹を押さえる。
そして無防備になった兜にロキの掌打が連続して打ち出される。
「うぇ!ぐぅ!」
顔を庇えば今度は腹へ、腹を防御しようとすると頭部へ、ロキに一方的に殴られ続けるロベルトは、殴られるたびに言葉にならないうめき声を上げる。
「やめ!やめろ!」
反撃しようとロベルトが両手を前に出した時、ロキはその手首を掴んだ。
そのまま手首を引きながらロキは体を反転させる。ロベルトのわきの下にロキの反対の腕を潜り込ませ、そのまま背負うと前方へと投げる。
ふわっと宙に浮いた感覚に混乱するロベルトは、天地が逆になったことに気づかない。着地する瞬間手を離されると、全体重が首にかかり、頭から落下したロベルトは首の骨が折れ気を失った。
「立てオラ!」
怒声を上げながら倒れたロベルトを蹴とばすロキ。何度蹴とばしてもロベルトは反応しないためロキは蹴るのを止めた。
自分たちを襲った無法者たちを全員倒したことを確認し、ロキは仲間に向かって振り返る。
そこにはやりすぎたロキに対してドン引きしている仲間たちがいた。
★★★★★★★★
瓦礫に埋まったロベルトの手下たちを掘り起こし、死にかけのロベルトと共に手足と口を縛った後にアルマのヒールで怪我を治してやった。そして帰還のスクロールを使い、その場にいた全員がそろってギルドへと帰還した。
ギルドへ戻ってからも大変だった。
トラブルを報告した後、ロベルトの猿ぐつわをはずすと、とたんに強気になったロベルトがロキたちを脅した。貴族家出身であることを理由にロキたちの行為を責め立てたが、やってきたギルドマスターに、国家事業である迷宮探索で違法行為を働いたのだから男爵家ともども罰は受けてもらうと脅かされ、ようやく自分の立場を理解したロベルトは何も言えなくなり、おとなしく牢屋へと連れられて行った。
★★★★★★★★
「ロキさんやりすぎですよ~」
「ロキ怖かった!」
金牛亭で夕食をとりながら、アルマとココロはロキに対して非難の言葉を浴びせた。
怒りに我を忘れてしまったことを少しだけ反省していたロキは、申し訳なさそうな顔をする。
だがアポロだけはロキの行為を否定しない。
「まああれくらいやらねば、こちらが殺されるところだったんだ。あっちのパーティのやつらだって、助けられたってロキに感謝してたじゃないか。最後の技は何なんだ?おまえ特殊な技を使えるのか?」
「ああ!あれは柔道って言って、俺の前世じゃ男は全員学校で習ってたんだ」
「お前の前世って、そんな物騒な世界なのか?」
「いや、本当は頭から落とさずに怪我をしないように背中から落とすんだけどさ」
そんな会話をレオンは黙って聞いていたが、一通りの出来事を聞き終わるとロキへと質問をした。
「ロキ、おまえ深層の装備をしたやつを素手で戦闘不能にしたのか?」
「ん?ああ。そうだな」
「それに複合魔法って難しいんじゃないのか?マルコさんからもうそんなことまで教わってるのか?」
「実はめちゃくちゃ威力の高い上級魔法も教わってるんだけど、威力が強すぎて使う機会はないんだよ!」
「……」
「どうしたレオン?」
「ロキ、おまえ一緒に深層を探索する気はないか?」
「急にどうした?」
「もうお前の実力はA級の連中と変わらない。装備品が違うだけだ。いつまでもD級のままでいなくても……」
「レオン、危険な深層の探索をしなくても、今のまま中層の探索してるだけで十分に稼げるんだ。命を危険にさらしてまでそこまで収入を増やしたいわけじゃないんだ。それに俺一人じゃなくて、他のみんなだって……」
そう言ってロキが尋ねると、アルマもココロ、アポロたちも全員深層の探索をしようという気はないという返事が返ってきた。
だからロキは無理するつもりはないと言うと、レオンは残念そうな顔で、そうか……とだけ答えた。




