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迷宮探索者の憂鬱  作者: 叢咲ほのを
Phase 1 生まれ変わってもブラック会社に勤めていた迷宮探索者の憂鬱
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第35話 救援依頼

 ギルドでは迷宮の自由探索とは別に、探索の依頼が出されることがある。

 特定のアイテムや魔石の回収を依頼する『指定依頼』。

 ある階層をクリアするための人員が不足している時に出される『応援依頼』。

 そして迷宮内で遭難したり負傷して戻って来れなくなった仲間の救出を依頼する『救援依頼』だ。


 迷宮から戻ったばかりのロキたちに、ギルド受付で要請されたのは、その救援依頼だ。

だか詳しい内容を聞く前に依頼を受けるわけにはいかない。


「ちょっと待ってくれ、依頼を受ける受けないの前に、詳しく説明してくれ」


「そうですね、すいません。緊急だったもので慌ててしまって。それでは、まずは依頼者と会ってもらえますか?」


 そう言われロキたちは、別室へと案内された。

 小さな待合室の扉を開けると、そこには一人の探索者の姿があった。


「ん?」


「あ!」


 ロキとその男の目が合った時、どこかで会ったことがあることを思い出す。

 ロキがどこで会ったっけな?と思っていると、男は驚いた表情のまま固まっていた。


「紹介します、今回救援依頼を出した、レギオン『ラージフォーチュン』の……」


 ギルド係員が男を紹介しようとすると、ココロがロキの服の裾を掴み、ロキに隠れるよう後ろに立った。

 そこでロキはハッと気づく。


「おまえ!ココロが前いたレギオンのやつか?!」


「……」


 相手の男は言葉を失う。ロキの表情が険しくなる。


「ご知り合いでしたか?それは丁度良かった……」


「この依頼は断らせてもらう!」


 詳しく説明する前に、ロキはこの救援依頼を断った。

 ココロは前のレギオンを辞める時に、いわゆるリンチを受け大けがを負った。ロキが単身乗り込み報復をしたが、遺恨が消えたわけではない。

 助けてやる義理はない。断るのは当然のことだ。

 ロキは男に背を向け、ココロとアルマの肩に手を伸ばし部屋の退出を促す。


「待ってくれ!」


 男の声が部屋に響く。

 ロキは振り返って呼び止めた男の顔を見る。

 男は苦しい顔でロキを見つめていた。


「頼む。手を貸してくれ。厚かましいのは承知の上だ。仲間が……仲間が死んじまうかもしれねえんだ……」


 ロキは冷たい表情で男に視線を送る。

 どういうことなのか理解に苦しむギルド職員が仲裁に入ってきた。


「依頼を断る前に、話だけでも聞いてもらえませんか?今本当に誰もいなくて、他に頼れる人がいないのです」


「知ったことじゃないね」


 ロキはギルド職員の言葉に耳を貸さず、再び部屋を出ようとした。


「ロキさん……」


 アルマが複雑な表情でロキを見上げた。

 ココロはうつ向いてその表情を見せない。


「行くぞ!」


 ロキは部屋を出るようアルマの背中を押す。


「待ってください。話だけでも聞いてくれてもいいじゃないですか?」


「頼む!あんたほどの力があれば仲間の命が……」


 助けを求める男の話の途中で、ロキは怒りの表情で反論した。


「そんなに仲間が大事なら、どうして仲間だったココロに暴行を加えたんだ?所詮てめえらは自分のことしか頭にねえんだろ?!」


「そんな……」


 男は困った顔でロキの言葉に言い返せずにいた。


「お二人の間に何かあったのですか?ですが、今は緊急事態です。個人的な感情は置いておいて、人命救助を優先してください!」


「いや、いいんだ。俺たちにその人に助けを求める資格はねえ……。すまねえ。他を当たるよ……」


 男はロキに助けを求めるのを諦めた。

 ギルド職員は事態がのみ込めず、オロオロとするばかりだ。

 ロキはそんな二人を置いて、再び出てゆこうとする。


「ロキ……」


 ココロの言葉に、ロキはココロを見る。

 ココロは不安そうな顔でロキを見つめながら、必死で言葉をひねり出す。


「助けてあげよう……」


 元同僚たちを可哀想と思ったのか、ココロからは意外な言葉が返ってきた。

 ロキは膝を曲げココロと視線を合わせると、優しい口調で言った。


「いいんだココロ。迷宮探索者を続けていると、命の危険はいつも隣りあわせだ。誰もが自分たちの自己責任で探索をしなきゃいけないんだ。遭難したのは、遭難した奴らの実力不足のせいだ。他の人間は関係ない。お前がそいつらを可哀想だなんて思わなくていいんだ』


 ロキの言葉に、助けを求めていた男も何も言えずに俯く。

 ココロはそんなロキの言葉に返事をした。


「でも、助けてあげたい……」


 恐る恐る反対意見を述べるココロに対し、ロキは笑顔でその瞳を見つめた。


「どうしてもか?」


「うん」


 そしてアルマもココロに同調する。


「助けてあげましょうよロキさん」


 ロキは二人の顔を交互に見ると、黙って頷き、そして振り返って言った。


「やっぱりその救援依頼を受けさせてくれ」


 ギルド職員と助けを求める探索者の男は、その言葉を聞いて表情を一変させると、ロキに対し交互に礼を伝えた。


「あ、ありがとうございます!」


「すまねえ!すまねえ!」


「礼なら俺じゃなくてこの二人に言ってくれ。俺は反対なんだが、話し合いの結果、多数決で受けることにしたんだ。それより急ぐんだろ?詳しい話を聞かせてくれ」


★★★★★★★★


「これがそうか……」


 ロキたちは、迷宮の中、足元にぽっかりと開いた直径3メートルほどの穴の前に立っていた。


 助けを求めてきた男ペドロの話によると、彼らはちょうどロキたちと同じ31階層を探索していたらしい。

 猛スピードで駆け抜けたロキたちと違い、ペドロたちはゆっくりジャイアントアントたちと戦いながら進んでいたところ、突然地面が崩れて砂のようになり、仲間のうち三人が砂となった地面の中へと吸い込まれて行った。

 慌てて助けようと残る二人が駆け寄ると、砂の穴の底には、時空アリジゴクディメンションアントライオンという魔物の姿があった。

 パーティーのリーダーでもある戦士の男が砂の中に飛び込み、ディメンションアントライオンに槍を突き刺して倒したまでは良かったが、そのまま仲間の四人は穴の中へと吸い込まれてゆき、砂と共に穴の底へと消えていった。

 砂が完全に消えた後、穴の中に見えているのは真っ黒な闇だった。


 ディメンションアントライオンは目撃例が極端に少ない魔物であるが、その特徴はある程度把握されている。

 通常迷宮の階層移動は、迷宮の入口とボス部屋からしかできない。

 だがディメンションアントライオンはそんな階層と階層の間の空間に生息し、時にこうして穴を開けて出現して獲物を狙うことがある。

 ディメンションアントライオンが開けた穴から落ちると、一つ下の階層へと降下してしまう。


 リーダーの男はペドロに、32階層の準備をしていないため、ペドロに32階層の準備をして救援を呼んでくるようにと言い残し、穴の中へ落ちていったという。

 そしてペドロはリーダーに言われた通りにして、ロキたちを連れてここまで戻ってきた。


「それじゃ行くか!」


「行くってどうやって降りるんですか?」


 アルマの問にロキは答える。


「飛び降りるだけだよ!」


「ええ?怖いです!」


「先に行って降りてきたら受け止めてやるから飛び込んで来い!」


「ええ?!」


 怯えるアルマをよそに、ロキはディメンションアントライオンが開けた穴へと飛び込んだ。

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