第34話 クイーンアント
その後もロキは、アルマの結界について検証を続けてみた。
その結果、いくつかの事が分かった。
結界の大きさはある程度自由自在であった。
正確な調整ができるわけではないが、アルマのイメージによって、大きくもなり小さくもなった。
結界の中では、やはりどんな魔法の使用も不可能であった。
火系統でなく、水、風、土、どの系統の魔法も反応を示さなかった。
ただ一つアルマのヒールだけは通常通り使えた。
また魔法だけでなく、結界の中ではポーションも使用不可能であった。
同じくスクロールも反応しなかった。
特殊効果の付いたアイテムの効果もなくなっているようだった。
つまりこの結界の中ではアルマのヒール以外の一切の特殊な力が作用しないらしい。
冷静に考えると恐ろしい能力であるが、アルマもココロも能天気であったため、ロキも深く考えるのはやめた。
魔物は一切結界の中へ入ることができなかったが、ロキたちは結界への出入りは自由であった。
「このやり方だと、好きなだけ迷宮を進んで行けるな……」
アルマの結界に守られながら、ロキたち三人は31階層を進む。
ジャイアントアントと遭遇しても、やつらは結界の中へと入ってくることができないため、遠目でチラチラ見られた後、立ち去ってゆくだけだ。
モンスタートレインの時は魔物たちが興奮状態であったため魔物が立ち去ることはなかったが、通常であれば刺激しなければそのうちどこかへ行ってしまうようだ。
戦闘を全くしなくてよい探索など、ロキにもこれまで経験がなかった。
そのためどこか物足りなさを感じながら、迷宮を歩き進んでいった。
この階層は要するに大きなアリの巣のため、遺跡タイプの階層にある隠し扉や宝箱のようなギミックはない。
ただただ歩き、気が付けば31階層の階層ボスの部屋の前まで辿り着いてしまった。
「ボス部屋まで来てしまった……」
「どうします?」
「どうって、ここまで来たなら行くしかないだろう?」
そう言ってロキは先頭を切って部屋へと一歩踏み出した。
そこにいたのは他のジャイアントアントの体長の三倍はあろうかという大きさの、巨大なアリの女王だった。
「これがクイーンアントか……ジャイアントジャイアントアント……」
「何言ってるんですか?」
「自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた……」
「女王アリの周りにも何体も仲間がいますよ……」
虫が苦手だというアルマが、クイーンアントの周りにいるジャイアントアントたちを嫌そうな視線で見る。
部屋の中にいるはクイーンアントとジャイアントアントだけのようだ。本物のアリのように卵をたくさん産んでいるわけではないらしい。
「それよりも、やっぱりこいつを倒さないと先へは進めないようだな」
ロキはクイーンアントの後ろを見る。
そこには何もない。これまでの階層と同じように、ボスを倒すと一つ下の階層への階段が出現するのだろう。
つまりここまではアルマの結界で、魔物と戦わずとも問題なく進んで来れたが、階層ボスは倒さないことにはより下層へと進むことはできないのだ。
「じゃあ戦ってくる」
「一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫も何も、おまえら二人とも非戦闘員だろうが」
アルマは回復専門、ココロは索敵や罠感知などの役目で、戦闘は全てロキの仕事だ。
「そうなんですけど……、何か大きくて強そうじゃないですか?」
実はアルマは階層ボスとの戦闘は初めてだ。
ココロも、不安そうな顔でロキを見つめる。
「これまで通り、俺が戦って、負傷したら回復よろしく頼む」
「それは任せてください!」
アルマの返答にロキは頷くと、クイーンアントたちへ向かって駆け出した。
「≪火炎柱≫!」
全体攻撃である火炎柱を放つと、剣を構えてジャイアントアントへ切りかかる。
足元から燃え上がる炎の柱にジャイアントアントは一瞬動きを止めるが、それほど大きなダメージとはなっていないらしく、襲い掛かるロキに立ち向かう。
ロキが剣を振り下ろすと同時に噛みつき攻撃を仕掛ける。
「あっ!」
ロキは声を上げると、突然Uターンし、アルマたちの元へと走り出した。
「大丈夫ですか?どうかしましたか?」
「しびれ毒浴びた……危ねえ、思わず剣を落とすところだった」
ロキはそう言って痺れた手のひらをひらひらをする。
アルマにヒールをかけてもらい状態異常を回復し、魔力も回復させてもらうと再び戦闘へと戻る。
数回攻撃を加えた後戻ってヒールをかけてもらうルーティーンを繰り返した後、ロキはクイーンアントのとどめを刺した。
繰り返し首元へと切りかかった結果、クイーンアントの頭部が切り落とされ絶命すると、その体は光の粒子となって消え、そこにはクイーンアントの甲殻の一部が残されていた。
「これがクイーンアントのドロップアイテムか。確か鎧とかの素材になるやつだ」
「あっちにも落ちてるよ」
ココロの指さした先には、ダガーなどの素材となるジャイアントアントの前足が落ちていた。
その二つのドロップアイテムと、それぞれの魔石を回収すると一旦32階層へと降りるが、32階層の準備はなにもしていないため、三人はギルドへと戻った。
ギルドへ戻ると、日はまだ高かった。ギルド内の各受付が並ぶ広間の中央にある立派な柱時計が刺す時間は、まだ昼前であった。
時計はこの世界では貴族や大きな会社にしかない高級品である。いつか自分たちのレギオンにも時計が欲しいなとロキが思いながら広間を見回すと、ギルド内は閑散としていた。
「帰ってくるのが早すぎて誰もいねえよ……。受付空いてるかな?」
三人が探索報告のための受付に行き呼び鈴を押すと、なんとかいたギルド職員が慌てて出てきた。
「こんな早い時間に申し訳ない。今日の探索報告に……」
そう言ってロキが魔石やドロップアイテムを提出すると同時に、職員が慌てて声をかけてきた。
「救出依頼を受けてもらえませんか?」
「え?」
「急な話ですいません。先ほど救出依頼が出たのですが、今みんな出払っていて受けてくれそうな人がいなくて困っていたんです!あなたたちに依頼を受けてもらえませんか?」




