ネタバラし
意識が戻ると、私は翔君の背中に抱き着いていた
一瞬悲鳴を上げそうになったが、それはこらえた。
「んぅん?」
こらえたのはいいが、抱き着く力を強めてしまったので結局、翔君は起きた。
私の覚悟は決まった。
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俺は、何かに強く抱き着かれて、目が覚めた。
「んぅん?」
俺は、イネラに抱き着いて寝たのに、なんでイネラに抱き着かれてるんだ?
目を開けると、イネラは俺に抱きしめられていたが、イネラは俺を抱きしめていなかった。
え、じゃあ誰だ?
俺は気になって後ろを見るために、抱き枕を手放し寝がえりをうった。
すると、そこにはクラスにいた女子だった。小野 栞。
確かに、こいつには「 お前は一番、逃げちゃいけないんだ。むしろ逃げること以上のことをしろ。」とは書いたけど、|本当に逃げること以上のこと《後を追って死ぬ》をするとは。
そして目が合った。その瞬間、栞は俺に抱えていたであろう気持ちを俺に伝えてきた。
「えっと……その、ずっとあなたのことが好きでし、っぷ!?」
大声を出して言いそうだったので、その口を急いで手で塞いだ。
「今寝てる奴いるんだから静かにしてくれ」
そう、小声で伝えて、栞が頷いたのを確認してから手をそっと放した。
「気持ちだけ受け取っておくよ。まぁお前の事は嫌いじゃないし。」
「え…でも、卒業式で……。」
「あれは便宜上だよ。どうせ言わされたんだろ?しかも見られた状態で。演技すんの大変だったんだから。」
「卒業式で泣いたのも私なんだけど……。」
「え、あれお前?顔まではそこまで詳しく見えなかったから気付かなかった。あれをぶっちゃけるので、緊張感が意外と高くなってたみたいで視界がブレブレだったんだ。」
「私の事、本当に……嫌いじゃ……ない?」
「だからさっき言ったじゃんか、嫌いじゃない。って。そんなに俺に嫌われていたいの?」
「ううん。」
栞はそう言って、俺をより一層強く抱きしめ、泣き始めた。
俺、どうするべきなの?
俺は、困惑しながらも栞の頭を恐る恐る撫でた。
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あれから、イネラが起きて色々大変だった。
一番大変だったのは、栞に「なんでこの子は制服を着ているのかな?」と笑顔で詰め寄られたことだ。
そんで今は、イネラに落ち着いてもらって、栞と二人きりにさせてもらっている。
今はリビングで、向かい合っている。
「質問!なんであなたは、血で文字を書いたんですか?」
「返答!それは血ではありません!血で書いたら普通垂れます!」
とかいう先ほどの、(俺一人の)弁論大会を開いたままの、おかしいテンションのまま俺と栞の質問返しが始まった。
この二人が、心臓に刃物刺して自殺した、なんて誰かに話しても誰も信じないんじゃないかな。
「質問!それでは、あれは何で書いたのですか?」
「返答!普通にアクリル絵の具です!赤を薄めずに使いました!」
「質問!なぜあの遺書はあんなに具体的なのですか?」
「返答!よく考えれば普通に予想できます!」
「質問!「卒業おめでとう」などの飾りはどこに捨てたのですか!」
「返答!職員室に文字を「卒業」の「卒」を「失」にして、「失業おめでとう」にして華々しく飾りました!」
「質問!あの手紙の内容は本当ですか!」
「返答!それっぽく書いた嘘です!」
「質問!私へ書いた手紙も嘘ですか!」
「返答!気まぐれです!」
「質問!あの子は誰ですか!」
「返答!俺の奴隷です!イネラって言います!」
そこで、一瞬の間が生じた。
「え?今なんて?」
「あ、いや。そのままの意味です。」
「イネラちゃん、ちょっと来てくれる?」
栞がイネラを呼びに行った。笑顔で。
あ、ヤバい。これはヤバい。怒ってらっしゃる。栞が笑顔って大体怒ってるんだよ。
「何でしょう。」
「ちょっと、自己紹介をしてくれないかしら。」
「はい?まぁ、いいですが。私は、カケル様の奴隷でイネラといいます。」
栞は、イネラの自己紹介が終わると、こちらに笑顔で振り返った。
「ねぇ翔君。どういうこと?イネラちゃんの名前よりも、奴隷の方が優先って、どういうこと?」
これは埒があかないわ。
「いい加減にしろよ。ここは異世界なんだぞ。人権なんてあったもんじゃないんだ。あんまりあーだこーだ言うと、元の世界に返すぞ。」
さっきの苦笑いとは打って変わって、真面目な表情で栞にそう言った。
すると、栞も落ち着いた。
分かってくれたようだ。
すると、何やら外が騒がしかった。
「…やせ!」
「「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」」
そして、なんか熱くなってきた。
これはあれだ。俺が寝てた時にゲリラ豪雨止んで、次の騎士達も到着して、俺の家が燃やされた奴だ。
「さてと。『転送』」
「え?今何したの?」
「あー、なんか邪魔な人とか火をどっかにやった。どこに行ったかは俺も知らね。」
「え、その力ってどうなってるの?」
「俺が口に出したときに発動するよ。あ、そうだ。『俺はどんな状態でも喋れるし、この能力はどんな状態でも発動する』これで良し。」
なんか腹減ってきたな。
「さー、飯食お!飯!なんか食いたいものある?」
「うーん。さっき死んだばっかりだしなぁ、あっさりしたものでいいかな。」
「……なんか、字面だけで見ると凄いことになってるぞそれ。」
「私もあっさりしたものが食べたいですね。特に動いたわけでもないですし。」
「じゃ海鮮丼だな。『海鮮丼並盛二つ、大盛り一つ』。」
目の前の机に、結構具が多い海鮮丼が合計3つ乗っかった。
鮪の赤身、トロ、中トロ、大トロ、サーモン、鯛、イクラ、ウニ、エビ、カニ、頂上にワサビだ。
醤油は、机の上に乗っていた。
箸は、律義に箸置きと共に置かれていた。
これを元の世界で食べるとしたら、いくらかかるだろうか。
「いただきます。」
「いたダきマす。」
「いっただきまーす!」
イネラのいただきますは、やっぱりちょっとぎこちない。
栞のいただきますは、元気いっぱいだった。目の前の海鮮丼が美味しそうな分もあるのだろうが。
まずは醤油を掛けずに一口。
おかしいだろこれ。旨いにも程がある。
赤身が甘い以上に、ご飯がちゃんと甘い。寿司酢のバランスが丁度いい。
期待しながら、中トロをご飯と共に、口に放り込んだ。
「あははははは!旨いにも限度があるって!」
おかしい位旨い。
中トロの油がしっとりとしていて、ご飯と反発していない。
正直、ここからは幸せ過ぎて記憶に残ってない。
ただ、今まで食ってきた刺身とかは、完全に冷凍食品となんら変わりなかった。
……なんか、もう家に火付けようとした人がかわいそうで仕方ない。