#49 力
「あれ、すいません、変だな、俺……これ汗ですからっ」
慌てて私に背を向け、必死で平静を装う。
無意味だって、わかってんのに。
私が気づいてないとでも思ってるの?
「…イマドキ、女子中学生でももうちょいマシな嘘つくよ」
こっちに背を向けたままの優也に近づき、後ろから抱きしめた。
「かっ、香帆さん!?」
「ごめんね……実は、優也が本当は指揮者になりたかったの、知ってるの」
「え…?」
「この曲弾かせたらきっとわかると思うって言われて……本当にごめんなさい!私、すごい無神経だった………」
そっと背中から離れ、優也の前に回り込む。
優也の目はやはり、涙で濡れていた。
いつも気丈で慰めてくれる優也が、私の前でこんな風な顔を見せたのは、これで二回目だ。
「優也に、もう絶対こんな顔させないって、前に誓ったのに……私、ほんとに何やってんだろぅ………」
「香帆さんは全然悪くないです!俺が勝手に………」
「………よかったら、何があったのか話してくれないかな…。私………優也の力になりたぃよ…?」
顔を覗きこみ、優也の目を見つめる。
私は音大生でもないし、指揮者志望でもない。
役に立てることなんて、正直なぃかもしれない。
わかったような口きくな、とか言われても仕方ない。
でも、それでも………
優也の力になりたいって、本気でそう思った。
今まで、学校でも職場でも、周りの人は皆自分の敵になる、と思ってほとんど関わろうとしてなかった。
そんな私が、ほんの少しずつだけど周りと溶け込もうと思えたのは、優也の優しさがあったから。
優也………
「私、何にも言えないかもしれない。でも、優也だけ苦しんでるなんて、そんなの嫌だよ…!」
自分でも何言ってるのかわからなくなってきた。
言葉では表せないけど、伝わって………!
「………すっごいヘビーになっちゃいますよ…?」
優也がやっと顔をあげた。
「全然平気。むしろライトだったら反応に困る」
そう言うと、優也は少し微笑んで私の手をそっと掴んだ。
「今から話すことを、香帆さんも背負う必要は全くないからね?」
そんな前置きとともに、優也はゆっくり口を開いた―――……。




