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moderato.  作者: 奏多
48/56

#48 夜に

迫り来る音の波、波、波―――……。




優也の指から生まれ、紡ぎ出される音の流れは、私の周りの空気を一気に変えた。




繊細で壊れ物を扱うかのように奏でたり




かと思えば、体中から音を放出しているかのような、魂の叫びみたいな音を叩いたり。




まるで、彼自身が楽器であり音楽であるかのように、音と一体となった優也の姿がそこにはあった。




いつかの、学園祭のときの彼を思い出す。




ピアノ協奏曲を、あたかも彼自身がピアノで、その会場全てを支配するかのように、歌い上げた彼の姿を…………。










「……て曲なんですけどー、俺は幻想小曲集の中ではこれが一番好きです」




矢野くんの言っていたことが、私にだっていやでもわかる。




「香帆さん?」




あなたが、どれだけ指揮者になりたかったのか。




「香帆さ……っ」




あなたが、どれだけ今でも、なりたいと思っているのか。






優也がピアノの蓋を閉めて、こちらに向き直る。




「香帆さん?いきなり何で泣いてるんですかっ(笑)」


「ゅー…ゃ」


「この曲はわりと自信あったんですけどねー。…あ、もしかして香帆さん、感動しちゃった?」


「ゆぅや…」


「これね、大学上がってすぐくらいに弾いたやつなんですよ。すっげー印象深くて」


「ゆうや」


「これ、結構多彩でおもしろいでしょ?なんかオケやってるみたいに錯覚を……」


「優也っ!」







優也の声を遮った私の叫び声が、薄暗い店内に響き渡った。




叫ばずにはいられなかった。




優也が












泣いていたから。


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