#48 夜に
迫り来る音の波、波、波―――……。
優也の指から生まれ、紡ぎ出される音の流れは、私の周りの空気を一気に変えた。
繊細で壊れ物を扱うかのように奏でたり
かと思えば、体中から音を放出しているかのような、魂の叫びみたいな音を叩いたり。
まるで、彼自身が楽器であり音楽であるかのように、音と一体となった優也の姿がそこにはあった。
いつかの、学園祭のときの彼を思い出す。
ピアノ協奏曲を、あたかも彼自身がピアノで、その会場全てを支配するかのように、歌い上げた彼の姿を…………。
「……て曲なんですけどー、俺は幻想小曲集の中ではこれが一番好きです」
矢野くんの言っていたことが、私にだっていやでもわかる。
「香帆さん?」
あなたが、どれだけ指揮者になりたかったのか。
「香帆さ……っ」
あなたが、どれだけ今でも、なりたいと思っているのか。
優也がピアノの蓋を閉めて、こちらに向き直る。
「香帆さん?いきなり何で泣いてるんですかっ(笑)」
「ゅー…ゃ」
「この曲はわりと自信あったんですけどねー。…あ、もしかして香帆さん、感動しちゃった?」
「ゆぅや…」
「これね、大学上がってすぐくらいに弾いたやつなんですよ。すっげー印象深くて」
「ゆうや」
「これ、結構多彩でおもしろいでしょ?なんかオケやってるみたいに錯覚を……」
「優也っ!」
優也の声を遮った私の叫び声が、薄暗い店内に響き渡った。
叫ばずにはいられなかった。
優也が
泣いていたから。




