第26話:明けない夜の誓いと、二人だけの朝
すっかりカーテンの隙間から差し込む月光が、静まり返ったリビングを淡く青く染め上げていた。
「ねえ、タカヒロくん……まだ起きてる?」
静寂の中、胸元から聞こえた一葉の声は、鈴の音のように優しく響いた。
ソファーの上で互いの身体を寄せ合ったまま、俺は、彼女の艶やかな黒髪を優しく指先で梳く。
「ああ、起きてるよ。……一葉こそ、そろそろ寝ないと明日の学校に響くぞ?」
「……ヤダ。寝ちゃったら、この幸せな時間が明日になっちゃう気がして、勿体ないんだもん」
一葉は子供のように少し唇を尖らせると、俺の腰に回した腕にキュッと力を込めてきた。
部屋着越しに伝わる身体の温もり。先ほど交わしたキスの熱はまだ冷めやらず、互いの鼓動が重なり合うようにトントンと心地よいリズムを刻んでいる。
「明日になっても、来週になっても、俺たちは何も変わらないよ。俺はずっとお前の側にいる」
「ふふ……うん。分かってる。分かってるんだけどね」
一葉はそっと顔を上げ、月明かりの中で瞳を揺らしながら、俺の目を見つめ返した。
「10年間の片思いがね、こんな風に叶うなんて思わなかったから……。あの日、タカヒロくんが過去の自分と決別して、私の手を取ってくれた時のこと、今でも鮮明に思い出せるの」
「冴えない自分」の仮面を脱ぎ捨てた俺を、一葉は迷うことなく抱きしめてくれた。
俺の歩んできた道は、決して無駄なんかじゃなかったのだと、彼女の愛が教えてくれた。
「俺の方こそ……お前に救われたんだ。あの日、一葉がいてくれなかったら、俺はきっと誰のことも信じられなくなってた」
「ううん、違うよ。タカヒロくんが元々、誰よりも優しくて、努力家で、格好いい男の子だったから……。私はただ、それをみんなに見せつけるお手伝いをしただけ」
そう言って、一葉は少し誇らしげに胸を張った。
完璧な『氷の女王』と呼ばれた彼女が、俺の前でだけ見せる、この愛おしくてどこか誇らしげな笑顔。
俺は愛おしさが胸から溢れ出し、彼女の華奢な肩を抱き寄せ、そのおでこにそっと唇を落とした。
「……ん」
一葉は嬉しそうに目を細め、そのまま俺の首筋にすり寄ってくる。
「タカヒロくん」
「ん?」
「これからも、生徒会でも、家でも……私のこと、たくさん甘えさせてね?」
「ああ。一葉が呆れるくらい、甘やかすよ」
「ふふ、言ったわね? 覚悟しておいてよ?」
悪戯っぽいはにかみ。
やがて、安心したように一葉の規則正しい寝息が聞こえ始めた。俺の胸元で小さな温もりとなって寄り添う彼女の寝顔を見つめながら、俺もゆっくりと瞼を閉じた。
※ ※ ※
翌朝。
カーテンの隙間から、眩しい太陽の光が差し込む。
「――タカヒロくん、朝ですよ? 起きて」
耳元で聞こえる甘い声と、鼻腔をくすぐる香ばしい味噌汁と焼き魚の香り。
目を開けると、そこにはエプロン姿の一葉が、少し照れくさそうに微笑みながら立ち尽くしていた。
「おはよう、一葉。……朝食、作ってくれたのか?」
「うん。私の『旦那様』になる人のために、張り切っちゃった」
「だっ……!?」
予想外の言葉に俺が思わず跳ね起きると、一葉は「ふふっ」と楽しそうに笑い転げた。
朝の光の中で輝く彼女の笑顔は、世界中のどんな宝石よりも眩しかった。
過去の痛みを乗り越え、自分たちの手で掴み取った『本物の絆』。
俺と一葉の歩む未来には、どこまでも温かく、光に満ちた今日という日が、ずっとずっと続いていくのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。
応援が次回更新の励みになります!




