第21話:温かな食卓と、二人だけの誓い
合同研修会の懇親会は、他校の生徒会メンバーとも良好な関係を築いたまま、和やかな雰囲気で幕を閉じた。
無事に大役を果たし終えた俺と一葉は、少し冷え込んだ夜の空気の中、彼女のマンションへと向かって歩いていた。
「はぁ……! 無事に終わってよかったぁ」
マンションのエントランスをくぐった瞬間、一葉は肩の力を抜いて、ほっと胸を撫で下ろした。
他校の前では完璧な生徒会長として凛と振る舞っていた彼女が、俺の前でだけ見せる、この素の表情。それがなんだか愛おしくて、俺の口元も自然と緩んでしまう。
「お疲れ様、一葉。他校の役員たちも、一葉の鮮やかな仕切りに感心してたよ」
「ふふ、タカヒロくんが隣で完璧にフォローしてくれたおかげよ。……さ、上に行きましょう? 約束の『とっておき』、作ってあげるからね」
※ ※ ※
一葉の部屋に到着し、二人でキッチンに立つ。
「二人で作った方が楽しいでしょ?」という一葉の提案で、俺たちは並んでエプロンを身につけ、夕食の準備を始めた。
トントン、と小気味よく野菜を刻む一葉の手際のよさに感心しながら、俺は鍋のシチューをかき混ぜる。
ふわりと甘いクリームの香りが部屋に広がり、さっきまでの緊張感が完全に解けていくのを感じた。
「はい、タカヒロくん。味見してみて?」
一葉が木べらですくったシチューを、ふうふうと息を吹きかけて冷ましてから、俺の口元へ差し出してくる。
距離が近い。彼女の綺麗な瞳が至近距離で俺を見つめていて、思わず心臓が跳ね上がる。
「……あーん。……うん、すごく美味しい。コクがあって、優しい味だ」
「本当!? ふふ、よかった。タカヒロくんに『美味しい』って言ってもらえるのが、私にとって一番のご褒美なんだから」
嬉しそうに目を細める一葉。
美咲の隣にいた頃は、自分が何かをしてもらうことすら「申し訳ない」と遠慮し、冴えない自分を押し通すことに必死だった。
だけど今、こうして目の前の少女と温かい食卓を囲み、互いの顔を見合わせて笑い合っている。
この当たり前で、けれど何よりも愛おしい幸せが、俺の胸をじんわりと満たしていった。
※ ※ ※
食事と片付けを終えた後。
リビングのふかふかなソファーに二人で並んで座り、温かい紅茶を飲む。
「……ねえ、タカヒロくん」
一葉がそっとカップをテーブルに置き、俺の制服の袖をきゅっと掴んできた。
そのまま俺の二の腕に頭を預けてくる。彼女の柔らかな体温と、甘いシャンプーの香りが俺を包み込む。
「ん? どうした、一葉」
「今日ね……図書館に行ったでしょう? あの場所で、ずっと言いたかったことがあったの」
一葉は俺の腕を両手で抱き締め、照れくさそうに上目遣いで俺を見つめてきた。
「あの日、図書館で一生懸命頑張っているタカヒロくんを見つけた時から……私はずっと、あなたの味方でありたいと思ってた。あなたがどんな姿をしていても、どれだけ自分を隠していても、私は絶対にあなたの味方でいるって」
真っ直ぐな、どこまでも純粋な想い。
裏切りと後悔を経験した俺の心に、彼女の言葉は温かな光となって、どこまでも届いていく。
「一葉……」
「だからね、これからはもう、一人で抱え込まないで。辛い時も、嬉しい時も、全部私と分け合ってほしいの。……それが、今の私の一番の願いなの」
彼女の頬が、ほんのり桃色に染まっている。
俺は深く息を吸い込み、彼女の手を優しく、だけどしっかりと握り返した。
「ああ、約束するよ。これからは何でも一葉に話すし、頼るよ。……俺にとっても、一葉は世界で一番大切な人だから」
「……! ~~っ!」
俺の真っ直ぐな言葉に、一葉は一気に顔を真っ赤にし、そのまま俺の胸元へと勢いよく顔を埋めた。
「もう……! そういうこと、急に言うのは反則……っ!」
「嘘じゃないよ。本心だ」
胸元で照れる一葉の頭を、俺は愛おしさを込めて優しく撫でる。
演じるのをやめ、過去の呪縛から解き放たれた俺たちの前には、どこまでも温かく、輝かしい未来が広がっていた。
静かな部屋の中、互いの心音を感じながら、俺たちはいつまでも抱き合い続けるのだった。
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