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永遠の非モテ男子を演じてきた俺。しかし、好きだった幼馴染に嘘告されたので、俺は演じるのをやめて下克上をします  作者: 沢田美


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第20話:夕暮れの図書館と、言葉にならない言葉

 約束の週末。


 懇親会が始まる数時間前、俺と一葉は、鳳凰高校から少し離れた古い市立図書館の前に立っていた。


 閑静な住宅街の中にひっそりと佇む、赤煉瓦造りの建物。

 木々の葉が風にそよぎ、サラサラと心地よい音を立てている。


「ここが、見せたかった場所?」


「うん。……私が、タカヒロくんの『秘密』を最初に知った場所なの」


 一葉は嬉しそうに微笑むと、俺の袖を軽く引いて館内へと足を踏み入れた。


 木造の温かみが感じられる、静まり返った館内。高い天井と、そこまで届く大きな本棚。

 一葉は迷いのない足取りで、一番奥にある日当たりのよい閲覧スペースへと向かっていく。窓際に置かれた小さな二人掛けの机からは、綺麗に手入れされた庭園が見渡せた。


「覚えているかな? 中学二年生の秋のこと」


 一葉は静かな声で、懐かしむように語り始めた。


「私は生徒会の準備で遅くなって、偶然この図書館に立ち寄ったの。そしたら……一番奥の席で、分厚い専門書を何冊も並べて、一心不乱に勉強している男の子がいたわ」


「……俺、か?」


「そう。学校ではボサボサの髪型で、伊達眼鏡をかけて、いつも一番後ろの席で寝たふりをしていたタカヒロくん。……でもね、その時のあなたの目は、誰よりも真っ直ぐで、綺麗だった」


 一葉はそっと、その時の光景をなぞるように窓際の机に触れた。


「美咲さんの前では『何もできない冴えない幼馴染』を演じていたけれど……あなたが陰でどれだけ努力をして、どれほど深い知識と優しい心を持っているのか、私はあの日に知ったの。……ううん、知ってしまったのよ」


 彼女は振り返り、真っ直ぐに俺の目を見つめた。

 そこにあるのは、一途で、どこまでも深い親愛の情だった。


「誰も気づかないあなたの本当の価値を、私だけが知っている。それがね、あの頃の私にとって、小さな、だけど何よりも誇らしい宝物だったんだよ」


「一葉……」


 演じることで自分を守り、誰からも理解されないと思っていたあの頃。

 俺が人知れず積み重ねていた努力を、この少女はずっと見守ってくれていたのだ。


 美咲に裏切られ、「十年間は何だったんだ」と絶望しかけた俺の過去は、決して虚無などではなかった。一葉がこうして、温かい思い出としてすべてを肯定してくれていたのだから。


「……ありがとう、一葉。俺の努力を見つけてくれて。ずっと、見守っていてくれて」


 心の底から溢れた感謝を伝えると、一葉の瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。


「ふふ、泣かせるつもりなんてなかったのに……。でもね、タカヒロくん。私はね、陰から見守るだけじゃなくて、こうしてあなたと手を繋いで、一緒に歩ける今が……一番幸せだよ」


 一葉は涙を拭いながら、愛おしそうに俺の手をギュッと握り締めた。

 その温もりが、俺の心に残っていた傷跡を、最後のひとかけらまで優しく包み込んで溶かしていく。


 ※ ※ ※


 夕方。


 懇親会の会場へと向かう道すがら、街灯が一つ、また一つと灯り始めていた。


 隣を歩く一葉の手は、もう当たり前のように俺の手と重なっている。

 指をしっかりと絡め合う、恋人繋ぎ。


「ねえ、タカヒロくん」


「ん?」


「今日の懇親会が終わったら……また私の家に来てくれる?」


「ああ、喜んで。……一葉の手料理、また食べたいしな」


「ふふ、じゃあ今日はもっと特別な、とっておきのメニューを作っちゃうね」


 一葉は幸せそうに微笑み、俺の二の腕にキュッと身体を寄せてきた。


 かつて『非モテ男子』の仮面を被り、過去の約束に縛られていた俺は、もうどこにもいない。

 目の前にいるこの愛おしい少女と共に、俺は自分の足で、新しい未来を歩んでいく。


 夕暮れの街並みの中、二人の繋いだ手が、離れることはなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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