第14話:波乱の予兆と、揺るがない私たちの定位置。
聖華女子学園との合同研修会を終え、鳳凰高校へと戻ってきた翌週。
学園中を騒がせていた『季節外れの転校生』の噂は、ついに現実のものとなって俺たちの前に姿を現した。
「――今日から編入することになった、一ノ瀬莉央です。よろしく」
2年B組の教壇に立ったのは、先日の合同研修会で顔を合わせたばかりの、聖華女子学園生徒会長の妹――一ノ瀬莉央だった。
姉譲りの端正な顔立ちと、どこか挑戦的な光を宿した切れ味の鋭い瞳。彼女が教室を見渡した瞬間、クラス中から「え、あの聖華女子から!?」「めちゃくちゃ可愛いじゃん……」と大きなどよめきが起こる。
だが、莉央の視線は周囲の歓声など意にも介さず、教室の最奥――俺の席へと真っ直ぐに向けられた。
「……見つけた」
莉央はフッと不敵な笑みを浮かべると、担任の指示を待たずに俺の席の前にある空席へと歩み寄り、カバンをドサリと置いた。
「研修会で見せたあなたの実務能力、姉から聞いてずっと興味があったの。鳳凰高校の音無崇広……これからよろしくね? 私、優秀な男の人って大好きなの」
「っ、おい、一ノ瀬……」
教室中が「え、音無くんと知り合い!?」「また音無くんかよ……!」と再び大騒ぎになる。
外見だけでなく、能力までも解放した俺の姿は、ついに外の世界の優秀な人間さえも引き寄せ始めていた。
だが。
そんな波乱の予兆を、鳳凰高校の絶対的な『王女様』が黙って見過ごすはずがなかった。
ガララッ!!
教室前方の扉が、凄まじい勢いで開け放たれた。
「――そこまでにしてもらえるかしら、一ノ瀬さん?」
現れたのは、冷徹な『氷の女王』のオーラを全身から放つ生徒会長――椎名一葉だった。
彼女は驚くクラスメイトたちを無視して一直線に俺の席へと歩み寄ると、当然のように俺の肩へ手を置き、莉央を冷たく見下ろした。
「編入初日から、他校の生徒会でしていたような真似をするつもりかしら? タカヒロくんは我が生徒会の『特別補佐』であり、私の――私だけの、大切なパートナーよ。安易にその優秀さにフリーライドしようとしないでくださる?」
「あら、椎名さん。学校では、ただの上司と部下、役員同士のはずでしょう? そんなに独占欲を剥き出しにしなくてもいいじゃないですか」
莉央が一歩も引かずにクスクスと笑う。
火花が散るような、ハイスペック女子二人の視線の応酬。
かつて『非モテ』を演じていた頃には想像もつかなかった、俺を巡る壮絶な争奪戦。
だが、俺の心は不思議なほどに落ち着いていた。一葉のこの、重すぎるほどの愛の檻の中にいることが、今の俺にとって最大の安らぎだと知っているからだ。
※ ※ ※
「――もう! タカヒロくん、あの転校生、絶対にあなたを狙ってるわ!」
放課後。
完璧に施錠された生徒会室。
一葉はソファの上で俺の胸に完全に体重を預け、今にも泣き出しそうな、それでいて激しい独占欲の滲む瞳で俺を見上げていた。
「心配しすぎだよ、一葉。俺の『特別』は、最初からお前だけだって言っただろ」
「本当……? 本当に、私だけのタカヒロくんでいてくれる……?」
「ああ。約束するよ、一葉」
俺がそう言って一葉の黒髪を優しく撫でると、彼女は安心したように目を細め、俺の首筋へそっと顔を埋めた。
転校生の登場によって、学園のパワーバランスは少しずつ動き始めているのかもしれない。
だけど、俺と一葉の間に紡がれた十年の想いと、新しく芽生えた恋の絆は、誰が現れようとも決して揺らぐことはない。
俺たちの下克上ロードは、新たなライバルの参戦すらも圧倒的な溺愛で置き去りにし、さらなる高みへと突き進んでいく。
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