第13話:他校の視線と、背中を預け合える関係
「――鳳凰高校の皆さん、お待ちしておりました。今年度の合同研修会を担当します、聖華女子学園の生徒会長、一ノ瀬です」
週末。
他校との合同研修会の会場となった、名門私立女子校の会議室。
鳳凰高校生徒会の代表として足を踏み入れた俺に、集まった他校のエリート生徒たちの視線が一斉に突き刺さった。
「え、ちょっと……鳳凰高校のあの男の子、誰? すごく格好いいんだけど……」
「新しく入った役員かしら? モデルみたいにスタイルが良いわね……」
ざわざわと広がる、女子校の生徒たち特有のどこか華やかなざわめき。
眼鏡を外し、本来の姿で歩くようになってからそれなりに日は経つが、こういう視線には、まだ少しむず痒いような気恥ずかしさがある。
ふと隣を歩く我が校の生徒会長――一葉を見ると、彼女の纏う空気が一瞬にしてキリリと引き締まったのを、俺の肌が敏感に察知した。
「聖華女子学園の皆さん、お招きいただき感謝いたします。鳳凰高校生徒会長の椎名です。そして、こちらが我が生徒会の実務を取り仕切る、私の『特別補佐』である音無くんです」
一葉は完璧で礼儀正しい微笑みを浮かべながらも、そっと俺との距離を詰め、肩と肩を密着させた。
その瞳の奥には、他校の女子たちに対する少しばかりの警戒心と、「私の大切なパートナーよ」という静かな自負がのぞいている。そんな彼女の小さな対抗心が、なんだか微笑ましくて愛おしい。
「それでは早速、各校の年間予算の見直しと、合同文化祭の草案について議論を始めましょうか」
会議が始まると、俺は一葉の期待に応えるべく、しっかりと頭を切り替えて自分の役割に集中した。
他校の役員たちが頭を抱えていた複雑な数字のズレを、タブレット一台で瞬時に修正し、丁寧に論理を組み立てて代替案を提示していく。
「――以上が、我が校からの修正案です。これなら各校の負担を三十パーセント軽減しつつ、規模を拡大できます」
「すごすぎるわ……。私たちの学校で一週間かけてもまとまらなかったアイデアを、こんな短時間で……」
「音無くん、本当に優秀なのね。もしよければ、この後の懇親会で詳しく――」
「申し訳ありませんが、音無くんのこの後の時間は、すべて私との『振り返り反省会』で埋まっておりますの」
他校の女子役員が俺に詳しく話を聞こうと一歩踏み出した瞬間、一葉が凛とした声で、だけど柔らかくそれを遮った。
彼女は俺の右腕をきゅっと自分の両手で抱き締め、少し照れくさそうにしながらも、周囲に「彼は私の特別な人ですから」と示すように優しく微笑む。
その真っ直ぐで一途な雰囲気に、他校のエリートたちもそれ以上は踏み込めず、ただ羨ましそうなため息を漏らすしかなかった。
※ ※ ※
「――ん、もう。タカヒロくん、他校の女の子たちに見惚れてなかった?」
研修会が終わり、他校の生徒たちが全員退出した後の、誰もいない会議室。
一葉は部屋の施錠を終えると、ソファへ俺を促して隣に腰掛け、そのまま俺の胸元にコツンと頭を預けて、甘えた声を上げた。
「見てないよ。資料の数字に集中してただけだ。それに、俺が一葉以外の女の子に興味を持たないことくらい、お前が一番よく知ってるだろ?」
「ふふ、そうね。タカヒロくんのその優しい心も、頑張り屋さんなところも、全部私が一番近くで見ていたいんだから。……誰にもあげないんだからね?」
一葉は俺の首筋に頭をすり寄せるようにして、少しはにかみながら、だけど深い愛情を込めて呟いた。
「ああ。これからもずっと、お前の隣にいるよ」
俺が一葉の肩をそっと抱き寄せると、彼女は嬉しそうに目を細めて、俺の手をギュッと握り返した。
過去の苦い思い出を乗り越え、俺たちの舞台はさらに外の世界へと広がっていく。誰にも邪魔できない二人の確かな絆を胸に、俺たちは新しい一歩をしっかりと踏み出していくのだった。
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