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永遠の非モテ男子を演じてきた俺。しかし、好きだった幼馴染に嘘告されたので、俺は演じるのをやめて下克上をします  作者: 沢田美


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第11話:等身大の僕たちと、雨上がりに芽吹くもの

 予算会議での一件から数日。

 俺への評価は、鳳凰高校の中で天井知らずに跳ね上がっていた。


「おい、音無の奴、今回の実力テストで学年2位だったらしいぞ」


「1位は椎名さんだろ? トップ2が生徒会にいるって、なんかすごいな」


「前はあんなに目立たなかったのに、本当はハイスペックだったんだな……」


 廊下を歩けば、周囲から羨望の眼差しが向けられる。

 伊達メガネを外し、ただ背筋を伸ばして歩いているだけなのに、すれ違う生徒たちの反応がガラリと変わった。

 だけど、周囲がどれほど賞賛の声を上げようとも、俺の心は浮ついてはいなかった。演じるのをやめて強気にはなったものの、長年信じていた幼馴染に裏切られた胸の痛みは、そう簡単に消えるものではなかったからだ。


 そんな中、俺が唯一、深く息を吐ける場所へと向かう。


 キィ、と静かに生徒会室の扉を開ける。


「おかえりなさい、タカヒロくん。今日も外は騒がしかったみたいね」


 上座のデスクで紅茶を淹れていた一葉が、俺の姿を見るなり、ほっとしたような優しい笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

 彼女は俺の顔を覗き込むと、そっと手のひらを俺の頬に添えてくる。冷え切った俺の心を、彼女の温もりがじんわりと溶かしていくようだった。


「一葉、だからまだ鍵を閉める前に――」


「ふふ、もう閉めたわよ? ほら、カチャッて」


 一葉はいたずらっぽく微笑むと、背後のドアノブを指差した。いつの間にか完璧な手際で施錠されている。

 学校では『氷の女王』なんて呼ばれることもある彼女だが、俺の前にいる時は、驚くほど細やかに俺の表情を観察し、気遣ってくれているのが分かった。


「今日のテスト結果、見たわよ。私のすぐ後ろまで来ちゃうなんて、本当に頑張り屋さんなんだから」


「手加減なしでやれって言ったのは一葉だろ。……まあ、お前には一歩届かなかったけどな」


「いいのよ。タカヒロくんが隣で追いかけてきてくれるのが、私は一番嬉しいんだから。……でも、無理はしちゃダメだよ?」


 一葉は俺の腕を優しく引っ張り、ソファへと促す。

 俺の隣にそっと腰掛けた彼女は、少し遠慮がちに、だけど確かに俺の肩に自分の頭を預けてきた。ふわりと広がる甘い香りが、俺の張り詰めた神経を緩めていく。


「学校のみんながあなたの格好よさに気づいていくのは、少しだけ寂しいけれど……。でもね、タカヒロくんが本当に辛い時、私の前でだけは、いつでもその荷物を下ろしてほしいの。私はずっと、あなたの味方だからね」


 彼女の言葉に宿る、どこまでも一途で優しい温もり。

 美咲に裏切られてバラバラになりかけた俺の心は、一葉のこの、押し付けがましくない真っ直ぐな好意によって、少しずつ、だけど確実に救われていた。


「……ありがとう、一葉。お前がいてくれて、本当によかった」


「な、何言ってるのよ、急に……っ」


 俺が素直に感謝を口にすると、一葉は一気に顔を真っ赤にして、俺の肩に顔を埋めてしまった。学校で見せる凛とした姿とのギャップが、たまらなく愛おしかった。


 ※ ※ ※


 同じ日の放課後。

 薄暗い一般教室の片隅で、支倉美咲は一人、机に突っ伏していた。


 周囲の席からは、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。だが、その輪の中に美咲の居場所はなかった。

 一軍グループの連中からは体よく切り捨てられ、今の彼女は、自分がどれほど周囲に傲慢に振る舞っていたかを痛感する日々を送っていた。


 本当に……バカだったな、私……。


 スマホの画面を見つめると、生徒会の公式アカウントが投稿した予算会議の様子が映っていた。

 そこには、誰よりも凛々しく前を見据えるタカヒロと、その隣で優しく微笑む椎名一葉の姿があった。


 かつて、あの優しい笑顔は全部、私のものだった。彼を傷つけ、失って初めて、私は彼がどれだけ私を支えてくれていたかを知った。

 手元に残ったのは、冷たいスマホの感触と、自分の愚かさが招いた孤独という現実だけ。


 美咲は静かにスマホを伏せ、深くため息をついた。

 溢れそうになる涙をこらえ、これからはこの現実から逃げずに、自分の足で歩いていこうと静かに決意する。


「――あの、支倉さん」


 不意に、上から控えめな声がかけられた。

 ハッとして顔を上げると、そこには同じクラスの、普段はあまり話したことのない女子生徒が立っていた。彼女の手には、数学のプリントが握られている。


「これ、今日の課題なんだけど……もしよかったら、一緒にやらない? 私、ここが全然分からなくて。支倉さん、数学得意だったよね……?」


「え……?」


 美咲は目を見開いた。

 てっきり、誰もが自分を軽蔑し、無視しているのだと思い込んでいた。だけど、真摯に反省し、静かに教室で過ごしていた彼女の姿を、見ている人は見ていたのだ。


「あ……うん! 私でよかったら、喜んで……!」


 美咲の瞳から、今度はぽろぽろと、嬉しさの涙が溢れそうになる。

 失ったものはあまりにも大きく、タカヒロとの過去は二度と戻らない。けれど、誠実に現実と向き合い続けた先には、新しい小さな明日が、確かに待っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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