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WINNING RUN  作者: じぇにーめいと


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3/8

第2R 背に乗って

 入学二日目、グロリアスの修業年限は一年であるため早速授業が行われている。


「ジョッキーの引退年齢の平均は24歳、長くても30歳と言われています。それがなぜか、わかりますね? イルミアさん」


「は、はい。ユニコーンの魔力は若く純粋な女性との親和性が高いからです」


「その通り、21歳を超えたあたりからジョッキーは共鳴の壁と呼ばれる魔力の減衰期に入ります。年を取るごとにこれは加速していくため、引退時期がある程度決まっているということですね」


 THTに使用される馬はユニコーン、ユニコーンは純潔の乙女にしか心を開かない。その有名な伝説が、THTを女人禁制の聖域たらしめている。グロリアスの修学可能年齢も16歳のみであるため騎手の年齢がシビアであることを表している。


「次に先ほどワードだけ出てきた、共鳴について。ソフィアさんはどれくらい知っていますか?」


「共鳴は馬と騎手の魔力がつながることによって起きる魔力共鳴現象レゾナンスのことです。共鳴によってできることは主に三つ、テレパシーによる馬との会話、身体情報の伝達、そして魔法の出力を上昇することです」


「完璧ですね。さすがです」


 THTではレース中に故意的な進路妨害を除いた魔法の使用が許可されている。進路上に現れた魔物、障害物の除去。空を飛ぶための飛行魔法。海を渡るための呼吸魔法。様々なものが使用される。魔法がレースの勝敗を分けるといってもいい。


 一時間目の座学を終え、二時間目は実技と移る。

 グロリアスでは一人一頭担当馬が決まっており、その馬で練習し模擬レースでも騎乗する。今日はその担当馬との初顔合わせでもあった。


 全員がそれぞれの担当馬の厩舎の前に立つ。十人十色、一つとして同じ馬は存在しない。筋肉量、性格、魔力量に至るまで、そんな馬たちと騎手は心を通わせなければならない、それぞれの性質を理解し適応するのも騎手の務めなのだ。


 ローズの担当した馬は白馬で、金色の鬣と巻貝のような角を持った凛とした雰囲気の馬。人懐っこいようでローズが近寄るや否や、厩舎から顔を出して湧き上がる好奇心をローズへと向けていた。


「ドリーマー、いい名前ね」


 ローズが頭をなでるとご機嫌そうに鼻を鳴らした。


「それでは早速、共鳴の練習をしてみましょう。それぞれ担当馬の角に触れてください」


 ユニコーンの角は魔力の集合体とされており、触れることにより共鳴をしやすくなる。が、レース中に角を触ることはできないためあくまで練習用である。ここを卒業するまでには皆がどこに触れずとも共鳴できるようになるまで成長する。いや、成長できなければ卒業をすることができない。


 丁寧にそっと角の先に手を当てる。ほのかな魔力の温かみが手のひらに広がる。しかし、一向に共鳴をすることはできない。


「あれ? どうして」


 思わずローズは声に出してしまう。ローズは学校に来る前、家で練習しているときすでに乗りながらでもテレパシーを送る程度なら共鳴ができるようになっていた。初めて会った馬だというのもあるだろうが、まさか角に触れて共鳴ができないとは思ってもいなかった。


 困惑した様子のローズを見て隣にいたイルミアが首を傾げた。


「ローズちゃん、どうかした?」


「その、共鳴ができませんの」


「まあ今日初めて会ったんだし、そういうこともあるよ。これから仲良くなればできるようになるって!」


「そうですわね。すぐに心を開いてくれるといいのですけど」


 その後、馬場へと移り初騎乗を済ませた。

 共鳴が出来なかったとはいえ、ローズの技術が劣化したわけではないためいつも通りの完璧な乗馬を皆へと見せつけた。


「ローズちゃんすごかったね、駆け足の時でも全然体感がぶれてなかったよ」


「慣れですわ、わたくしは皆さんよりも多くの時間を馬と過ごしていますから」


 馬具を取り外し、ドリーマーを厩舎へと戻した後もう一度ローズは角へと触れてみた。が、やはりだめ。

 ローズは頭を抱えた。ドリーマーは人懐っこく、頭も良い、騎乗した時ローズが指示を出せばすぐに反応し行動に移した。時折共鳴を嫌がる馬もいるが、そういう馬の大半はただ人間が嫌いなだけ、ドリーマーにはそういった兆候が見当たらない。原因がわからずはっきり言って五里霧中という状態だった。


 ついローズもらしくないため息をついてしまう。それを知ってか知らずかドリーマーは楽しそうに首を振っている。


「ねえどうしてわたくしと話してくれないの?」


 声を出して話しかけるのはローズにとって7歳ぶりのことだった。もしかしたら声としてなら通じることができるかもしれない、テレパシーはあくまで思考を共有するだけ馬が人の言葉を理解してるわけではない。だからローズの言葉にドリーマーが答えることはない。

 ローズは人生で初めて焦りを感じていた。共鳴は騎手にとって初歩中の初歩、クラスメイトたちも差はあれど共鳴を行っている。後れを取るということが、ディアナの娘であるローズにとってとてつもないプレッシャーとなっていた。


「君がドリーマーの担当かな?」


 金髪の女が横からドリーマーの頭を撫でた。

 そしてローズのほうを向いてにひっと笑みを浮かべた。


「この子とっても不思議な子でね。共鳴が出来ないんだよ」


「そんなユニコーンがいるんですの?」


「あー正確にはね、共鳴が苦手って言ったほうがいいのかな。できないことはない。私ここで数年先生してるけどちゃんと共鳴が出来てる子は一人しか見たことないの」


 ローズはそれを聞いて少し安心をしてしまった自分に唇を嚙み締めて鞭を打った。共鳴が嫌いではなく苦手という馬を聞いたのはローズは初めてだった。だからこそ気になった、その唯一ドリーマーと共鳴をした生徒のことが。


「その共鳴が出来た人のことをもっと詳しく教えてもらえませんか?」


「いいよ。その子もね、最初は会話ができないって凄い寂しがってた。でもね、諦めなかったの、最後までその子とドリーマーが会話をすることはなかった。だけどオーラを纏うことはできた」


 オーラ、それはプロの登竜門ともいわれる一種の到達点。

 人馬の親和性が極限まで高まり、完璧に魔力の共鳴が行われたアスリートで言うところのゾーンに入った状態のこと。魔力の共鳴により、馬の身体能力を最大まで高め加速させる騎手にとって必須のスキル。

 必須であるが一筋縄でこれを習得することは不可能。オーラを習得できずプロ手前で夢を諦めるものも少なくない。


「言葉なんてなくてもいいんだよ。馬と気持ちを一緒にすれば、そうすればおのずと結果は追いついてくるはずだからさ」


 そう言うと女はローズの頭をポンポンと優しく撫でると厩舎を去っていった。


「そうよね、努力をすればきっと大丈夫。わたくしは何たってお母様の娘なんですもの。わたくしだって絶対にあちら側に立って見せるんだから」

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