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WINNING RUN  作者: じぇにーめいと


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4/8

第3R 行き先

「イルミアさん、もう少しスピードを上げて。タイムが遅れてますわ」


「わ、わかった!」


 呼応し、イルミアの馬のスピードが上がる。

 現在の授業は並走。並走とは二頭の馬で並んで走り特定のタイムを目指す調教である。馬の競争心を刺激すると同時に、騎手にとってはその興奮した状態の馬をコントロールする技術を向上させることができるトレーニングでもある。


「三秒のずれ、まだまだね」


 レイサがストップウォッチを見ながら告げる。

 レースでは数秒のずれが命取り、騎手には正確な体内時計が求められる。厳しいように聞こえるが三秒のずれはプロにとってはあり得ないことなのだ。


「ごめんねローズちゃん、私のせいだよね」


「いえ、わたくしも途中からペースを上げましたから。最初からもっとペースを気にして声をかけるべきでしたわ」


「そうね、ペースが落ちたのにはあなたに責任がある」


 予期せぬ言葉にローズは体が固まった。

 確かにタイム自体は遅かったが自らペースを落とした自覚はなかった。


「乗ってるときに足を絞める癖があるでしょ、確かにそうすれば体勢が固定されてあなたは乗りやすいでしょうね。でも馬はどうかしら」


 痛いところを突かれてつい一歩後ずさる。

 指摘された欠点は無意識にしてしまうローズの癖だった。

 乗馬をする分には問題ない、そのため学園に来る前も指摘されることはなかった。だが、レースに出るとなると話は違う。


「それはそうとあなたもよ、イルミア・オールディン。ずっとローズに合わせていたでしょう、自分でタイムを考えて馬を動かしなさい」


「ひゃ、はい!」


 レイサは告げるだけ告げると建物の中へと入っていった。

 ローズはため息をつきながら後方を見る。

 次のグループが並走を始めていた。

 視線は一方に集中する、ソフィアが騎乗する青鹿毛の馬体フォースブルー、狂いのないスピードで坂を上っている。きれいに横並びに並走し、タイムも誤差一秒、完璧と言ってもいい。


 ローズは胸が締め付けられるような感覚に襲われた。それが遅れからくる焦りからか、母の敵に負けた焦燥感からかそれはローズ自身もわからなかった。


 入学してから一週間がすでに経とうとしていた。しかし共鳴の兆候は一切見られない。クラスメイトのほとんどは会話は簡単に行えるようになっている。放り込まれた森林の中で一人、ローズは取り残されていた。


 昼休憩となり、食堂へと向かうローズに一人の女が話しかけてきた。赤髪の映える凛々しい顔立ちの騎手にしては少し背の高い女。好意的な笑みを浮かべている。


「君がレイサちゃんと同室の子?」


「そうですけど……」


 レイサの名を聞いてぎこちなく答えると、女は手を合わせて「ごめんねー」と言いながら苦笑いを浮かべた。

 彼女はアロナ・キュートハート、レイサの同級生であり現役の騎手。18歳ですでに重賞で三勝を挙げている期待のホープだ。


「レイサちゃんがずっと君の話するから気になっちゃって」


 アロナはサンドイッチをローズに手渡して近くのベンチに座った。


「少しお話しよっか、君も気になってるでしょ。レイサちゃんのこと」


「そうですね、お聞きしたいですわ」


 ローズは隣に座り、サンドイッチの封を開けた。


「レイサちゃんってさ根っからのディアナさんファンなんだよ」


 それを聞いてさらにローズはわからなくなった。

 伝説の騎手であるディアナのファンは多い、クラスメイトのほとんどがディアナのファンだ。そういった人物はわかりやすくローズに好意的に接してくる。だからわからなかったレイサという人物が。


「ほらディアナさんって結婚するって引退したじゃん、引退した後もすぐに君を身ごもったし」


「それと何が関係が?」


「まあ簡単に言えば八つ当たりだよねえ、結婚なんかしなければ引退しなかったのに~って。君を生んだことで復帰も絶対なくなったしね」


「まあ復帰何て元からないだろうけど」と付け足してアロナはサンドイッチを一口頬張った。


「でも悪くないでしょ、レイサちゃん」


「それは、まあ」


 文句がないといえば嘘になるが確かにレイサの指導にはためになるものがあった。レッドベリル、その名を聞けば誰もが息を飲む。それは学園に努める教師たちだってそうだ、誰だって色眼鏡を掛けてローズのことを見る。

 どこかディアナという名に恐れ、遠慮してしまうのだ。

 だがそれに比べレイサはどうだろうか、口は悪いとはいえ核心を突く。ローズにとっては何よりもためになる。


「うまくやってっていうのは無理かもしれないけどさ、あんまりレイサちゃんのこと見放さないでほしいな~って」


「それはまあ、わたくしも教えてもらいたいことがまだたくさんありますので」


「レイサちゃんね、本当は君のことだ~いすきだからあんま嫌いにならないであげてね」


 さすがにそれは冗談だと思いつつも悪い気はしないローズだった。昼食を終えたローズはアロナと別れ、いつもより少し軽い足取りでレイサが待つ午後の授業へと向かった。


「10分早いわよ」


「わたくしはもう準備万端ですので」


「あたしの休憩時間も考えてよ」


「それにしては随分と道具をお揃えなのですね」


「口だけは達者ね。で、するの? しないの?」


「よろしくお願いします!」

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