第11話 睡眠
スーパーのイートインスペースで食事を取りながら今後のことを考える恵一。
とりあえずこれからどこに向かうかだけは決めることにした。
現在地はスマホが使えないので詳しくは調べられないが、道中の案内標識を見てきた限りだと北関東のどこかであることは間違いない。
ということはATMで金を下そうとしたコンビニから北の方角にひたすら走ってきたということだ。
『うん、これから暑くなるしちょうどいい。このまま北に向かおう。』
向かう先を決めた恵一は、食べ終えたお弁当のごみをゴミ箱へ捨てると店を出た。
『北は、あっちだな』
北を目指し再び走り出す。
恵一は走りながらこんなことを考えていた。
『このまま日本国内で逃亡生活をすべきなのか?いっそのこと飛んで海外に逃げてしまうのだどうだろうか?』ということだ。
そう、恵一は飛べるのだ。
いわゆる普通の逃亡犯(?)のように飛行機や船を使う必要はない。
偽造パスポートだってもちろん必要ない。
自力で飛んで日本を脱出してしまえばいいのだ。
言ってみれば本当の意味での「高飛び」である。
だがこの方法はすぐに自らで否定した。
それにはいくつかの理由がある。
まず恵一は海外に行ったことがない。
正確に言えばこの前シベリアまで飛んで行ったので1度行ったことがあることにはなるのだが、旅行として海外を訪れたことが一度もないのだ。
もちろん外国語の習得なんて皆無。
英語ですら「this is a pen」レベルだ。
そんな海外ビギナーの恵一にとって、日本以外の国というのはあまりにも未知が過ぎる。
現在日本円にして約50万円ほどの金額は所持はしているが、現地通貨に両替するにはどうしたらいいのかすらわからない。
仮に銀行や両替所を見つけたとしても、何と言って替えてもらえばいいのかもわからない。
ATMの操作もわからない。
仮にこれらをクリアできたとしても、言葉が通じない中でそれからどのように暮らしていけばいいのか皆目見当がつかない。
いくら警察に追われる心配がなくなるとはいえ、そのような生活は警察に追われる以上の苦痛になりかねないのだ。
それならば、まだ警察に追われる生活の方がマシというものだ。
しかも、そもそもどこの国に行くのが良いのかもわからない。
国を決めたとしても、その国に行くにはどっちの方角にどのくらい飛んで行けばいいのかもわからない。
下手すれば海の上を延々と彷徨うことにもなりかねず、最悪日本に帰ってこれなくなる危険性すらある。
このようなリスクを負うくらいなら、日本国内になんとか活路を見出すのが正しいと恵一は判断したのだ。
そんなことを色々考えながら走っていると軽く数時間が経過しており、辺りは暗くなり始めていた。
だが疲労は特に感じない。
『今夜の寝床をどうしようかな?』
ということを少し考えたが、この時点で全く疲労感を感じていなかったので、そのまま行けるところまで走り続けることにした。
だがこの決断が失敗だったと、この後すぐに後悔することになる。
そのまま走り続ける事さらに数時間。
未だに恵一に疲労は影は感じられなかった。
しかしここで恵一には想定していなかったことが起こり始める。
「疲労」は全く感じていなかったが「睡魔」が襲ってきたのだ。
そう、スーパー〇〇〇人になったことによって体力が大幅に強化され、長時間走ったくらいでは全く疲れないという超人的な体を手に入れはしたが、睡眠が不要になったわけではない。
普通に眠くなるのだ。
その上、昨晩はしっかり寝られていない。
日中ネットカフェで少し昼寝した程度だ。
このような状態では、突如限界が訪れたとしても全く不思議な事ではない。
恵一はここに来てようやく「今夜の宿」の重大性に気が付いた。
日中は『このまま夜通し走り続ければいいか』とか、『もし疲れたらネットカフェにでも泊ればいいか』程度に軽く考えていたのだが、そもそもこの考え方自体が間違いだった。
まず、恵一が日中利用したネットカフェは、よくある大手全国チェーンのネットカフェだ。
恵一はここの会員になっているわけだが、ここに入会する際に恵一の個人情報が登録されている。
つまり、ここを利用するということは、警察に「今ここにいますよ」と教えることと同義なのだ。
もちろん他のネットカフェを利用しても構わないが、大抵の店では最初に身分証の提示が求められる。
つまり、今後ネットカフェを使うということはほぼ不可能な状態と言えるだろう。
そもそもだが、夜まで走り続けたことによって、恵一は既に東北地方にまで足を踏み入れている。
比較的車の往来のある道を選択してきたので、まるっきり「山の中」というわけではないが、ネットカフェなんてそうそうあるものではない。
スマホの地図も見れない状態で「ネットカフェ」自体を探すこと自体が困難な事なのだ。
かといってホテルに泊まるというのもリスクがある。
身分証の提示を求められないとも限らないし、もし全国ニュースで顔が出ていた場合、寝ている間に通報されて取り囲まれかねない。
何よりも日本のホテルは素泊まりでもそこそこ高額である。
逃走資金が心もとない恵一にとっては、極力節約したい部分でもある。
眠い目をこすりながらも、なんとか人口も比較的多そうな市街地までやってきた恵一。
その中心部付近に公園を見つけると、しぶしぶ今夜はベンチで夜を明かすことを決めた。
『シベリアまで行っても大丈夫だったし、ここで一晩寝ても風邪なんかはひかないだろう』
そう高を括っり、リュックに入っていた服を着られるだけ着こむと、ベンチに横たわるのだった。




