↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢の魔女は星を宿す  作者: かなゑ
始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/28

9

言い聞かせるように問いかけても、カトレアと呼ばれた存在は知らぬ存ぜぬといった様子である。


「あ、あの、その方は一体…」

「驚かせてしまってすみません。彼女は、春の妖精カトレアです」


妖精という言葉に、アマリリスは言葉を失った。

無理もない。レンツ王国は、春の妖精の加護によって守られている国だ。豊かな土地、潤沢な資源、四季折々の自然。そのすべてが加護の恩恵によるものだと、幼い頃から語られてきた。

他国がこの地に容易く手を出せない理由も、そこにある。だが妖精は滅多に姿を現さず、ましてや個人に加護を授けるなど、伝承の中の話に等しい。近年、王国の加護が弱まりつつあると囁かれている今、目の前の光景はあまりにも重い意味を持っていた。


「ほら、カトレア。アマリリスさんが驚いてしまったじゃない」

『まあ、わたくしほど偉大な存在なら、驚いて当然だわね。そこの人間、よく目に焼き付けておくことね』

「まったく反省していませんね。小さいのに、態度だけは立派です」


春の妖精とシェイラの間で繰り広げられる小さな応酬を、アマリリスはただ呆然と見つめていた。完全に蚊帳の外だ。


「もういいです。後であなたには話があります。カトレア。それより、アマリリスさん」

「は、はい!」


思わず間の抜けた返事をしてしまったが、気にしている余裕はなかった。


「ラグトさんに逢わせると約束しました。ですがその前に、あなたにしてもらわなければならないことがあります」

「えっ、と…なにをすればいいのかしら」

「あなたが身につけているネックレス。それを、わたしに渡してください」


ネックレスを渡してほしいと告げてから、沈黙が場を占拠した。言葉を受け取ったアマリリスは、俯いたまま何かを考え込んでいる。

少しするとアマリリスは答えを出した。


「わかりました…とは、すぐに返答できません。これはとても大切にしているものです。ですが、なぜそれが必要なのか教えてください。その内容によっては、お渡しするか考えます」

「いきなり言われても、意味がわかりませんよね。言葉で説明するより、実際に視てもらったほうが早いです」

「なにをするの」

「アルス。あなたのハサミをください」


ソファでだらけていたアルスに声をかける。全身から面倒だという空気を漂わせながらも、無視されると悟ったのか、渋々とガーデニングポーチに手を伸ばし、ため息混じりにハサミを取り出した。


「新しいハサミ、お前が買えよ」

「もちろんです。特別なハサミを贈りますよ」


ハサミを受け取ったシェイラは、アマリリスの前へ戻る。腕を前へ差し出した、その瞬間、ハサミは淡い光に包まれ、ふっと手から離れた。代わりに、シェイラの手には杖が再び現れ、その先が光の中心へと伸ばされる。


「リコレッド・リトルノ」

「その魔法っ─」


もう何が起きても驚かないつもりだった。だがそれは、あまりにも甘い考えだった。


(どうして気が付かなかったの!シルバーの杖、無詠唱魔法、春の妖精!それにエーデルリッド…)


シェイラが言葉を紡いだ途端、周囲の景色は音もなく消え、視界いっぱいに花が咲き誇る世界へと塗り替えられる。


「─ヒスイ・レイヴン・エーデルリッド。死んだはずの、悪夢の魔女」


アマリリスの呟きは置き去りにされたまま、シェイラは光に包まれたハサミへ手をかざす。金属の形は失われ、そこには光の粒が集まって脈打つように浮かんでいた。


「主アルス。此れを以て、過ぎし世界を視ることを是とするか」

「ああ、許すよ。約束は守れよ。」

「えぇ、必ず。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。