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場所を店から母屋へ移し、二人はテーブルを挟んで向かい合って座っていた。張り詰めた空気には不釣り合いなアップルパイと紅茶の甘い香りが、ほんのりと漂っている。
「砂糖とミルクは?」
「いえ、いらないわ。それより」
「どうしてラグトさんを知っているのか、ですか?」
「えぇ」
聞きたいことは他にも山ほどあるはずだ。それでも、真っ先に口を衝いて出たのは、その名だった。
シェイラも、これ以上引き延ばす意味はないと判断する。一口だけ紅茶を含み、カップを静かにソーサーへ戻した。
「アマリリスさんはヴィラスの森から、どうやってこの店へ来たのか覚えていますか?」
「いいえ。気づいたら、あのお店にいたわ。特に違和感もなかった」
「あの鏡は、誰彼構わず選んでいるわけではありません。あれは人を選びます。選ばれる者には、おおよその共通点がある」
「選ぶ…つまり、鏡に意思があるということから?」
「その通りです」
一拍置いて、シェイラは言葉を続ける。
「共通点の一つ目は、生きている者であること。二つ目は、渇望するほどの想い人がいること。三つ目はその想い人が、死者であること。この三つです」
「……鏡が選んでいるなんて、信じ難い話だわ」
「それでも事実です。魔法契約が交わされた以上、虚偽を述べる意味はありません」
あまりにも断定的な口調に、アマリリスも理解したのだろう。嘘ではない、と。
それでも納得には至らず、ただ黙って、探るようにシェイラを見つめ続けていた。
「アマリリスさんとわたしに見えたあの花は、鏡に選ばれた人間にしか見えません。そしてあそこに咲く花は、鏡を通って来た人と、想い人を繋ぐ─記憶の花です」
「記憶の花。それでタイムだったのね。あなたがラグトの名前までわかったのは、魔女だからかしら?」
「まあ、そうですね」
正解でもなければ、間違いでもない。シェイラは曖昧な返事を選んだ。しかしそれは、アマリリスの求める答えではなかったらしい。彼女は眉を寄せ、怒気を孕んだ視線を向けてくる。
「曖昧な返事ね」
(説明するの、正直面倒なんだけどな。)
「魔女であることも要素としてはあります。ですが、それ以上に」
『わたくしの加護の力が大きいでしょうね。でも他の魔女では、この力を行使するなんて到底無理なのよ。』
声が落ちたのとほぼ同時に、シェイラの頭にわずかな重みが加わった。
実体は小さい。けれど、白いドレスに白い花冠を戴いたその姿は、場の空気を支配するには十分すぎるほどの存在感を放っている。まるで王座に腰掛けるかのように、優雅に、当然のように、シェイラの頭上に鎮座していた。
「説明する前に出てきてはダメだと、言いませんでしたか。─カトレア」




