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悪夢の魔女は星を宿す  作者: かなゑ
始まり

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5

「はっ?あなた、何を言ってるのよ。あるじゃない、花!」


苛立ちを隠そうともせず、野良猫もといアルスへ詰め寄る。だが当の本人は意にも介さず、足を組んだまま、残りのアップルパイに手を伸ばしていた。


「だから、ねーって。花なんか。あるのは机とガラスだけだろ」

「あなた、どこか悪いんじゃないの?あれが見えないなんて、意味がわからないわ!」

「アルスはどこも悪くありませんよ。本当に彼には、見えないんです」


シェイラの視線が語っていた。この女は、何を言っているのだと。だが、向けられている当人は、いつもと変わらぬ顔でそこに立っている。場違いなほど落ち着き払い、焦りも動揺もない。その態度は、虚言とは思えないほど自然だった。


「なによ……それじゃあ、私の頭がおかしいって言うの!?」

「いいえ、それも違います。間違いなく、わたしとあなたには、見えています」

「意味不明よ!頭がおかしいんじゃないのっ!」

「安心してください。これから、説明しますから」


何を聞かされるのか察したのか、彼女の身体がわずかに強張る。警戒を隠さず身構えるその前で、シェイラはゆっくりとテーブルへ近づいた。ガラスドームに左手をかざし、瞼を閉じる。

魔力がシェイラの体内を巡り、脈打つように左手へと集まっていく。ドームの内側で、光の粒が静かに、生まれ、重なり、形を結び始めた。


「っ──」


息を呑む音が、確かに聞こえた。シェイラが目を開けると、少し離れた場所で、彼女は床に座り込んでいた。言葉を失い、呼吸さえ忘れたまま、ありえない光景を、その瞳に映して。


「…ラ、グト」


シェイラの左手の先。ガラスドームの中に、彼女の探し人が小さな姿で現れていた。

ラグトと呼ばれたその存在は、言葉を発することもなく、ただ静かに彼女へと視線を向けている。呼ぶでもなく、応えるでもない。ただそこに佇み、見つめ返していた。


「ラグト!ラグト!」


彼女は衝動のまま小さなラグトへと詰め寄り、シェイラの手をガラスドームから引き剥がす。その瞬間、そこにあったはずの姿は、霧が散るように消え失せた。ドームの中には、何事もなかったかのように、もとの花だけが残されている。


「……どうして?」

「先ほどのラグトさんは、想いから創り出した姿です」

「あなたが…やったの…?」

「はい。その通りです。それでは、わたしの質問に答えていただけますか」

「一体、なにを」

「ラグトさんに、逢いたいですか?」

「はっ?馬鹿にしてるの?」

「逢いたいですか」


先ほどまでの温和な態度は影を潜め、淡々とした声だけが落とされる。感情を交えず、ただ答えだけを求める声音だった。胸の奥が締め付けられ、息が詰まりそうになる。だが、問いへの答えは、最初から決まっていた。


「…えぇ、逢いたいわ。」

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