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答えを聞いたシェイラは、静かに笑みを浮かべた。その表情に喜びはなく、拒絶もない。ただ、決定を告げる前触れのような静けさがあった。
掌を目の高さへと持ち上げると、そこへ光の粒が集まってくる。
その光に向かって、そっと息を吹きかけた。粒は形を持ち、やがてシェイラと彼女を囲うように、淡い輪を描く。
「契約をしませんか」
「……契約?」
「わたしが、ラグトさんに逢わせて差し上げます」
「う、嘘よ」
「嘘ではありません。魔法契約と言えば、信用に足るのでは?」
「っ──あなた、正気なの……」
魔法契約。それは魔法使いにとっては、絶対の拘束を持つ誓約だ。契約を違えれば、命を以って代償とする。
その名を口にする以上、軽率な虚言は成り立たない。魔法使いの数は少なく、彼らは多くを秘して生きている。だが、魔法契約の重さだけは、一般の人間ですら知っていて当然の知識だった。
「契約しますか」
(本当に?本当に、信じていいの?知らない女。それでも…他に、方法はない)
逡巡の末、絞り出されるように声が落ちた。
「…契約、するわ」
それが最善だったのか、彼女自身にもまだわからない。それでも、口にした答えを引き下げる気配はなかった。
「承りました」
シェイラが左手を胸元に当てると、袖口の奥でブレスレットが淡く瞬いたように見えた。
次の瞬間、その手には一本の杖が握られている。
身長よりわずかに高いそれは、過剰な装飾のない、静かな銀色をしていた。床を軽く叩くと、二人を囲んでいた光が、音もなく弾ける。散ったはずの光は、ほどなくして再びシェイラの前へと集まり始めた。
やがてそれらは文字となり、空中に静かに刻まれる。
『一、甲および乙は、本契約に関する一切の情報を第三者に漏洩してはならない
二、甲は乙に関する存在、能力、その他すべての情報を漏洩してはならない
三、甲は契約の完遂、または途中破棄のいずれの場合においても、再契約を行うことはできない
四、乙は甲に対し、意図的に不利益を与える行為をしてはならない
五、意図的でない事由により契約の完遂が不可能となった場合に限り、乙は甲に事実を説明したうえで、乙から契約を終了することができる
六、本契約は完遂後も消滅せず、死後においても効力を有する
七、乙は甲に虚偽の報告をしてはならない
以上の条項に違反した場合、命、またはそれに準ずるものを対価として支払うものとする』
「この内容で、同意いただけるのであれば、わたしの手を」
彼女は動揺を隠しきれない様子を見せながらも、視線だけは文字を追い、ひとつひとつを確かめている。
理解はしている。ただ、踏み出す覚悟が追いついていない。
差し出されかけた手は、宙の途中で止まり、行き場を失ったままだった。
まだ時間を与えるべきかもしれない。そう考え、言葉を探そうとした、そのときだった。彼女の手が、わずかに動いた。




