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図星だと丸わかりの態度だが、一旦無視して話を進める。
「死者の森。そう呼ばれるようになった理由をご存じですか?」
「別に。興味ないわ」
「そうですか。では、よく覚えておいてください。あの森には、幻覚作用を引き起こす植物が多く自生しています。幻覚だけならまだしも、中枢神経を麻痺させるものも少なくありません」
「だから、なによ」
シェイラの説明の意図が伝わっていないらしく、少女の声音には苛立ちが滲んでいた。
「これでもわかりませんか。なら、誰にでもわかるように言い直しましょう」
「だ、誰にでもって……」
言いかけた言葉を遮るように、彼女は睨みつけてくる。その二人の間で、元野良猫はすっかり諦めた顔をしてソファに身を沈めていた。
すでに魔法は解いてあるため話せるはずだが、シェイラが持ってきた皿からアップルパイを盗み、何も言わずに食べ始めている。騒がれるよりはましだと思い、サイドテーブルに紅茶とパイの皿を置いた。
「あの森で“逢える”死者は幻覚です。死んだ人間に本当に逢える森なんて、存在しない。そう言っています」
「嘘よ。逢えた人を見たことがあるって人から、私は直接聞いたのよ」
「人間はいい栄養源ですから。餌を撒くのも、森の目的のひとつなのでしょう。あの森の植物には魔素を含むものが多い。植物も魔素を取り込んでしまえば、魔物化して捕食欲を持ちます」
「そんな話、聞いたことがないわ。あり得ない」
否定するのも無理はない。いま話していることは、世に知られていない情報だ。
わざわざ近づかなければ害のない恐怖に、挑もうとする者は少ない。挑んだとしても、対策を知らなければ、死人に口なしになるだけだ。
「この話はここまでにしましょう。本題に入らないと」
「本題? 何を言ってるの」
「逢いたいですか」
「……え?」
「ヴィラスの森に行ってまで、逢いたかった人」
「なにを─」
「ラグトさん、違いますか?」
シェイラが魔法を使ったときよりも、はるかに大きな衝撃が彼女を襲った。
驚きは一瞬で、すぐに胸の奥から怒りが噴き上がる。視線は、首元に鋭利な刃を突きつけるかのように研ぎ澄まされていた。
今まで床に縫い留められていたように動かなかった足が、強引に前へと踏み出される。二人の距離は、確実に詰まっていく。
「あなたがどうして…ラグトの名を知っているの!?」
「どうしてだと思いますか」
「わからないから、聞いてるのよ!」
問い詰めているはずなのに、シェイラの態度は変わらない。その余裕が、焦りを煽る。
「答えて!どうして知ってるの!」
「あの花が、見えますか」
空気を読まないほど落ち着いた声だった。治まらない怒りと動揺を必死に押さえ込み、シェイラが指差した先へと視線を向ける。
そこには、テーブルの上、ガラスドームの中で静かに咲く花があった。さらにその周囲にも、同じ花が点々と咲いている。違いは、触れられるか否か、それだけだった。
「花がなんだって言うのよ!見えるわよ!」
「なんの花ですか」
「そんなのどうでもいいから、ラグトのことを教えて!」
「では、答えてください。あの花はなんですか」
「もう……っ!あの花はタイムでしょ!」
苛立ちを隠そうともせず吐き捨てると、シェイラはふいに視線を逸らした。
この場にいるもう一人の存在、元野良猫へと身体の正面を向けた。整った顔立ちの男は、彼女と同じテーブルを、気だるげに眺めている。
「アルス、何か見えますか?」
答えをわかっていて投げかけられた問いだと察し、アルスは小さく息を吐いた。
「はぁ……花なんか、見えねーよ」




