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悪夢の魔女と死んだ恋  作者: かなゑ
始まり

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5/28

5

ソファに横たわっていた体は、いつの間にか背もたれに預けられていた。態度は相変わらず大きく、背もたれの頂に頭を押し付けている。


「客だ。――じゃなくて、お客さまでしょ」


注意した声に遅れて、視線を店内へ戻す。

鏡の前に立っていたのは、十代後半ほどの少女だった。


「いらっしゃいませ」


そう声をかけると、少女は一瞬、言葉を失ったように瞬きをする。


「……だ、誰?それにここは、どこなの」


戸惑いを含んだ声。

けれど、視線は落ち着かず、店内を素早く見渡している。


「ここはフラワーショップ『ステラ』です。

 わたしは、ここの店員ですよ」

「…花屋?」


少女は小さく眉を寄せた。状況を受け入れようとしているのか、それとも疑っているのか、判然としない。


「おかしいわ……。私は、ヴィラスの森にいたはずなのに」


ヴィラスの森。レイヴィス王国の首都・ヴェルホーエンから西、人の足で三日はかかる距離にある。

少女は、ここが森ではないことには気づいている。

ただ、それ以上のことが飲み込めずにいるようだった。


「あなたの感覚は、間違っていません。ここはヴィラスの森ではありません。ここは、ヴェルホーエンです」

「……ヴェルホーエン?」


言葉を反芻するように、少女は小さく呟く。


「そんなはず…まずそんな距離、簡単に……」


途中で言葉を切り、口を閉ざす。

自分でも何を言おうとしたのか、迷ったような様子だ。


「…あなたが、何かしたの?」


疑いの視線が向けられる。


「説明、してもらえるかしら」


強く言い切るでもなく、けれど引き下がる気もない声音。

理解の範疇を超え、警戒している。

その張りつめた様子が、以前見た保護されたばかりの元野良猫を思い出させた。

思わず、口元が緩みそうになる。


「……何?」


少女がぴくりと反応する。


「今、笑ったわよね」


(……しまった)


「すみません。変な意味ではないんです」


そう答えると、少女は少し距離を取ったまま、こちらを見つめ続けた。

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