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「いただきま〜す」
美味しそうにパイを頬張る美男子の横を抜け、庭に面した窓を開ける。
外の空気に触れながら、花を思い浮かべた。
掌を顔の前に掲げ、静かに息を吸い込む。
瞼を開いたその瞬間、掌の上に小さな光の粒が生まれ、やがて寄り集まり、形を成していく。
現れたのは、自らでは舞うことのできない、散り散りの花びら。
散る前の姿を思い描き、そっと息吹を吹き込む。
花びらは窓を抜け、風に乗り、まるで道を知っているかのように迷うことなく進んでいく。
一枚も欠けることなく、在るべき場所へ、在るべき姿で帰るように─
店の入り口に吊るされたガラスシェードへと鎮まり、淡い光を宿した。
「今日も、君の魔法と花は綺麗だね」
光が通り過ぎた先を見つめながら、当たり前のように向けられる言葉。
穏やかで、揺るぎのない声音に、胸の奥がわずかにむず痒くなる。
「この花が、目に留まることは、あまりありませんけどね」
「だからいいんじゃないか。特別感があってさ」
「そういうものですか」
「そういうものだよ。僕が言うんだ、自信を持って」
「言われなくても、自信はあります。ないのは信頼です」
「えぇっ! ここの関係は、何があっても切れない信頼で結ばれてるじゃないか!」
「はいはい。そうですね」
「あぁー、冷たいんだー」
この調子になると、面倒くさい。だから基本は無視が正解だ。背後でまだ何か言っているが、それも聞かない。
客足が少ないとはいえ、仕事は仕事。そろそろ店に戻らなければならない。
その前に、ソルーナの朝食を用意し、庭のテーブルへ置く。
ソルーナはシェイラにもう一度だけ挨拶をすると、軽やかな足取りでテーブルへ向かい、まるで瞬間移動でもするかのように跳び乗った。
気品と愛嬌を併せ持つその姿を目に焼き付け、店へと足を向ける。
中へ入った途端、間髪入れず、聞き慣れた声が飛んできた。
「おい、客だ」




