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「僕に内緒でつまみ食いとは、感心しないな」
物音ひとつ立てず、背後から声が落ちてくる。
「僕の分も、用意してくれてる?」
「っ——もう、脅かさないでくださいよ」
かじりかけのパイを皿に戻し、
シェイラの頭二つ分ほど上にある顔を睨みつける。
当の本人は何事もなかったかのように、
にこにことパイの皿を指さしていた。
「朝ごはん、食べたんじゃないんですか?」
「だってこれ、シェイラが作ったパイでしょ?君の作るパイは美味しいから。ね、ダメ?」
年上のはずなのに、いつも甘えた弟のような態度をとる。
しかもたちの悪いことに、顔がやけにいい。
その自覚があるからこそ、こんなことを言ってくるのだ。
「わたしにその顔しても、効果ありませんよ。頼まれなくても渡すつもりでしたけど。というか、わかっててやってますよね。タチが悪いです」
「あ、バレてた? コミュニケーションってやつだよ。大事でしょ?」
「大事ですけど、人は選んでください。いつか痛い目に遭いますよ」
小さく小言を投げると、
彼は鼻を高くして「大丈夫だよ。僕は人を見る目があるんだよ〜」と、
鼻歌まじりに受け流した。
切り分けたパイを皿に乗せ、紅茶を注いでいると、十時の鐘がなる。
開店時間を告げる合図だ。
店の正面にあるランプに、光を灯さなければならない。




