1-4 邂逅
アルスが指差す先には、アマリリスより頭ひとつ分ほど背の高い少年がいた。
建物の角からわずかに顔を覗かせ、アマリリスのいた方をじっと見つめている。周囲をきょろきょろと見回しながら、そろりそろりと建物へ近づいていく。
自分たちの姿が見えないのをいいことに、アルスは木陰で立ち止まった少年の顔を覗き込むように近づいた。
「こいつ、なにしてんだ。つーか誰だ」
「どうしてそんなに喧嘩腰なんですか」
喧嘩腰のアルスの顔へ軽く掌を押し当て、そのまま引き剥がす。
何やら文句を言っているようだったが、シェイラはすべて聞き流した。
一方、少年は緊張した足取りで、ゆっくりと建物へ近づいていく。
だが、まだ木々や草花が視界を遮り、アマリリスの姿は見えない。
慎重に歩みを進め、ようやく建物が見える位置まで辿り着く。
当のアマリリスの姿は見えなかったが、何かを作業する音だけが聞こえてきた。
少年は勇気を振り絞るように大きく息を吐き、肩を上下させる。
そして意を決したように、物音のする方へ歩き出した。少しずつ距離を縮め、大きな木の下まで辿り着く。
先ほどと同じように顔だけを覗かせ、熱い視線をアマリリスへ向けた。
だが、当の本人はまったく気づいていない。
「こいつ、草抜いてるのか」
「整備はされていませんが、畑みたいですね」
姿が見えない二人は、そのまま堂々と近づいた。
雑草の合間には、所々に何かの茎が顔を出している。
アマリリスはそれを傷つけないよう、雑草だけを手際よく抜いていた。
黙々と作業を続け、額に浮かんだ汗を手首で拭う。
再び雑草へ手を伸ばした、その時だった。
──パキッ。
背後で枝を踏むような乾いた音が響く。
「誰っ!」
しゃがんでいたアマリリスは一瞬で立ち上がり、いつの間にか小さな鎌を手にしていた。
小柄な身体とは裏腹に、その眼差しは鋭く、声にも一切の震えはない。
問いかけに返事はない。それでもアマリリスは警戒を緩めなかった。
「そこにいるのは誰なの」
音のした方へ、はっきりと言い放つ。
なおも返事はなかったが、隠し通せないと思ったのだろう。
居心地の悪そうな表情を浮かべながら、少年が木陰から姿を現した。悪戯を見つかった子どものような、ばつの悪さが顔いっぱいに滲んでいる。
一方のアマリリスは警戒を解かず、少年を鋭く見据え続ける。
その視線に気圧されたのか、少年は降参を示すように両手を上げ、一歩前へ踏み出した。
だが、その一歩がかえってアマリリスの警戒心を煽った。
「動かないで! 何が目的!? どうやってここへ来たの!?」
張り詰めた声が、少年を射抜く。
「ち、違うんだ! その、えっと、あの……」
「嘘をつかないで! あなた、城の外の人間でしょ!? わたしを攫いに来たの!?」
「攫いに!? 違うよ! 父様とはぐれたんだ! それで探し回ってたら女の子が見えて……綺麗な髪だったから、つい……」
「はっ……?」
予想もしなかった返答に、さすがのアマリリスも面食らう。
敵意に備える覚悟はできていた。けれど、好意を向けられる心構えなどしていなかった。
数秒固まったまま、口をぱくぱくと動かす。
一方の少年も、焦りのあまり本音をそのまま口にしてしまったことへ気づき始めたのか、頬をみるみる赤く染めていく。
「なんだこいつら」
「可愛いじゃないですか。誰かさんと違って素直ですし」
「俺だって素直だろ!」
「アルスは素直なんじゃなくて、馬鹿正直なだけです」
素っ気なく言い切られたアルスは不満そうに文句を並べるが、シェイラはまったく取り合わない。
目の前では、ぎこちない空気のまま二人とももじもじとしていた。
だが、不意にアマリリスが何かを思い出したように目を見開く。
「あ、あなた……ここにどうやって入ってきたの!?」




