23
ベラは静かに、ベッドのそばに置かれていた椅子へ腰掛けた。
周囲を一度見回してから、ゆっくりとウィンプルを外す。
「お前、それ……!」
驚きの声の先にあったものは、首にあるはずのない“目”だった。
透き通るような藍色で、見つめていると胸の奥を撫でられるような、落ち着かない感覚に陥る。
「気持ち悪いですよね。すみません」
「いや……驚きはしたが、気持ち悪くはない。純粋な疑問なんだが、その目はなんなんだ?」
ベラは小さく息を吸い、言葉を選ぶようにして口を開いた。
「これは……視えないものが視える目です。わたしの場合は、人の思考や嘘などがわかります」
「な、なるほど。だが、それがさっきの話とどう関係するんだ?」
会話は淡々と進んでいるが、アマリリスはまたしても卒倒しそうになっていた。
「この目は、人の精神や身体に干渉することができます。たとえば、特定の記憶や行動に鍵をかける、というようなことが可能です」
「それは…忘れさせる、ということか?」
「いえ。忘れはしません。ただ、人の認識に制限をかけるだけです。覚えているのに、思い出せない…そんな状態になります」
その時、これまで黙っていたシェイラが小さく呟いた。
「なるほど……そういうことだったのね。あなた、だったのね。ベラさん」
シェイラの中で、点と点が一本の線に繋がった。
一方でレイは、なぜそこまでの秘密を自分に明かすのか理解できずにいた。
あの二人がそれほど大切なら、問答無用で精神に制限をかけてもよかったはずだ。
「あなたの考え、もっともです」
「……えっ」
「視えてしまうので。すみません」
「あ、そうか……そうだったな。なんだか、恥ずかしいな」
「やっぱり、いい人ですね。あの二人が、笑顔で話して、名前まで名乗るわけです」
「そうか?普通だと思うが……褒められるのは嬉しいな」
ベラの言う通り、人の良さが滲み出るような笑顔だった。
「私以外に、あんな二人は初めて見ました。これから関わることはないかもしれませんが……あなたには、この力を使いたくないと思ったんです」
その言葉は真っ直ぐで、偽りはなかった。
ベラは答えを急かさず、ただ静かに待つ。
「ありがとう。嬉しいよ。でも……これから関わることはないかも、って言われるのは少し寂しいな」
「え……でもレイさんは、首都配属の騎士様なんじゃ……」
「あはは。騎士だって、バレてたか。まあ隠してないからいいんだが。その通りだ。ただ、当分はこの領地に滞在することになりそうでな」
「──そう、なんですね」
ベラは嬉しそうに微笑んだが、同時に戸惑いも浮かべていた。
「ねえ。ここは、何年なの?」
アマリリスがふと口にした。
「1867年です」
「……ここは、もしかしてシュテルストブルク?」
「はい」
1867年のシュテルストブルクは、隣国ノイフェーゲルとの戦争の最前線だった。
レイは、王都から援軍として派遣された騎士である。
「行きましょうか」
シェイラの方を見ると、そこにはすでに扉が現れていた。




