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悪夢の魔女は星を宿す  作者: かなゑ
始まり

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「わたしのことを進めるって、ラグトに逢わせてくれるって話かしら」

「その通りです。そして最初にお伝えしたように、それが必要です」


シェイラはアマリリスの首元を指した。

その先にあるネックレスを、アマリリスは静かに握りしめる。


「これは……ラグトがくれたものなの。他の物ではダメなのかしら」

「大切な物だということは承知しています。でも過去を視るには、鍵になる物が必要なんです」

「そう……」


理由があることはわかっている。それでも、すぐには手放せなかった。


「一応聞いておきたいんだけれど、ネックレスは戻らないのよね?」


迷いはそこにあった。

事実、アルスのハサミはもうない。ガーデニングポーチの空白だけが、それを物語っている。


「はい。ただ、これは強制ではありません。嫌ならしない選択肢もあります」

「えぇ」


アマリリスの視線がアルスへ向いた。何度も言いかけて、飲み込む。その繰り返しに、アルスが眉をひそめた。


「あぁー! さっきからチラチラなんだよ!聞きたいなら聞け」

「あ、ごめんなさい……」

「謝れって言ってねぇよ」


ぶっきらぼうな声だった。けれど拒絶ではなかった。


「あのハサミは、大切な物だったの?」

「あれは、ベラから貰った物だ」

「ベラって、あのシスター……」


アルスは空いた場所へ手を添える。

それだけで十分だった。


「怖くなかった? 失くなるの」

「怖くねぇよ。そう思えるだけの時間は貰ったしな。それにハサミがなくなったくらいで、俺があいつらを忘れるわけねぇ」

「そう……ありがとう」


アルスは顔を背けた。


「別に」


その短い返事のあと、アマリリスは顔を上げた。


「ネックレスはあなたに託すわ。でも、聞きたいことがあるの」

「なんでしょう?」

「ラグトに逢うっていうのは、過去を視ること?」

「いいえ、違います」


そこから先の言葉で、アマリリスの胸は冷えていく。それは"ラグトが望まなければ逢えない”というものだった。あくまで低い可能性の話だと、説明はされた。

しかし可能性はゼロではない。決めたはずの覚悟が揺らいだ。


「カトレア、出てきてください」

『仕方ないわね』


現れたカトレアは、シェイラの肩に腰を下ろす。


『一人だけいたわ。逢うことを拒んだ人が』

「一人……」


それだけで、十分すぎた。


『でもね、鏡に選ばれた時点で、あちらも少なからず逢いたいと思っているはずよ』

「ラグトも……?」

『そうよ』


不安は消えない。けれど、ほんの少しだけ希望が残った。


「あの……逢うのと視るのが別なら、逢うだけではダメなんでしょうか?」

『無理なのよ』


カトレアはそう言ってテーブルへ降りる。

そして何事もないように、マフィンにかじりついた。


「無理っていうのは…?」

『死んだものの数は、生きているものよりずっと多いの』

「つまり……」

「途方もない数。その中からラグトさん一人を、手がかりなしで探すことになるんです」


シェイラの言葉に、アマリリスは息をのむ。そんなことをしていたら、時間がいくらあっても足りない。


『だから記憶が必要なのよ』

「視た記憶が、その人を見つける目印になります」

「なるほど……」


ようやく、理解が追いついた。

死者に逢う。

それは想像より、ずっと遠いことだった。

そのとき、カトレアがふと思い出したように顔を上げる。


『シェイラ。あなた、アレも伝えておきなさいよ』

「アレ? あぁ、確かにそうですね」

「アレって?」

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