21
「わたしのことを進めるって、ラグトに逢わせてくれるって話かしら」
「その通りです。そして最初にお伝えしたように、それが必要です」
シェイラはアマリリスの首元を指した。
その先にあるネックレスを、アマリリスは静かに握りしめる。
「これは……ラグトがくれたものなの。他の物ではダメなのかしら」
「大切な物だということは承知しています。でも過去を視るには、鍵になる物が必要なんです」
「そう……」
理由があることはわかっている。それでも、すぐには手放せなかった。
「一応聞いておきたいんだけれど、ネックレスは戻らないのよね?」
迷いはそこにあった。
事実、アルスのハサミはもうない。ガーデニングポーチの空白だけが、それを物語っている。
「はい。ただ、これは強制ではありません。嫌ならしない選択肢もあります」
「えぇ」
アマリリスの視線がアルスへ向いた。何度も言いかけて、飲み込む。その繰り返しに、アルスが眉をひそめた。
「あぁー! さっきからチラチラなんだよ!聞きたいなら聞け」
「あ、ごめんなさい……」
「謝れって言ってねぇよ」
ぶっきらぼうな声だった。けれど拒絶ではなかった。
「あのハサミは、大切な物だったの?」
「あれは、ベラから貰った物だ」
「ベラって、あのシスター……」
アルスは空いた場所へ手を添える。
それだけで十分だった。
「怖くなかった? 失くなるの」
「怖くねぇよ。そう思えるだけの時間は貰ったしな。それにハサミがなくなったくらいで、俺があいつらを忘れるわけねぇ」
「そう……ありがとう」
アルスは顔を背けた。
「別に」
その短い返事のあと、アマリリスは顔を上げた。
「ネックレスはあなたに託すわ。でも、聞きたいことがあるの」
「なんでしょう?」
「ラグトに逢うっていうのは、過去を視ること?」
「いいえ、違います」
そこから先の言葉で、アマリリスの胸は冷えていく。それは"ラグトが望まなければ逢えない”というものだった。あくまで低い可能性の話だと、説明はされた。
しかし可能性はゼロではない。決めたはずの覚悟が揺らいだ。
「カトレア、出てきてください」
『仕方ないわね』
現れたカトレアは、シェイラの肩に腰を下ろす。
『一人だけいたわ。逢うことを拒んだ人が』
「一人……」
それだけで、十分すぎた。
『でもね、鏡に選ばれた時点で、あちらも少なからず逢いたいと思っているはずよ』
「ラグトも……?」
『そうよ』
不安は消えない。けれど、ほんの少しだけ希望が残った。
「あの……逢うのと視るのが別なら、逢うだけではダメなんでしょうか?」
『無理なのよ』
カトレアはそう言ってテーブルへ降りる。
そして何事もないように、マフィンにかじりついた。
「無理っていうのは…?」
『死んだものの数は、生きているものよりずっと多いの』
「つまり……」
「途方もない数。その中からラグトさん一人を、手がかりなしで探すことになるんです」
シェイラの言葉に、アマリリスは息をのむ。そんなことをしていたら、時間がいくらあっても足りない。
『だから記憶が必要なのよ』
「視た記憶が、その人を見つける目印になります」
「なるほど……」
ようやく、理解が追いついた。
死者に逢う。
それは想像より、ずっと遠いことだった。
そのとき、カトレアがふと思い出したように顔を上げる。
『シェイラ。あなた、アレも伝えておきなさいよ』
「アレ? あぁ、確かにそうですね」
「アレって?」




