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「ねぇ、あなたどう──」
「おい!俺のアップルパイ食べたの誰だよ!?」
アマリリスが口を開いた瞬間、怒号が部屋を裂いた。
和やかだった空気が一瞬で崩れる。
視線の先には、頬に寝痕をつけたアルスが立っていた。
ただのアップルパイとは思えないほどの形相である。
突然の大声に、アマリリスの思考は再び固まった。
「アルス、扉は静かに開けてください」
「扉なんてどうでもいいんだよ!俺の、俺のアップルパイは!?」
「そんなの一人しかいないじゃないですか」
「またてめぇか……俺のアップルパイ食ったの」
アルスの視線がイーサンへ向く。怒りで肩が震えていた。
「食べられる場所に置くほうが悪いでしょ〜」
「いつも俺のだけ横取りしやがって!」
「毎回取られる学習能力の低さすごいよね」
「っ、なんだとてめぇ!!アップルパイ返せ!」
「もう食べちゃったもんね〜。吐き出そうか?ほら、あ〜」
「おう吐き出せよ!なんなら手伝ってやる!」
(会話内容がまるで子供ね……あ、まずい)
アマリリスは呆然と二人を見つめ、視線を前へ戻した。
そこには、ニコニコと笑うシェイラがいた。
背筋が伸びる。
「アマリリスさん」
「はいっ!」
「少し空気を入れ替えますね。うるさくなるかもしれませんので、耳を塞いでいてください」
「え、えぇ」
言われた通り、耳を軽く塞ぐ。
その直後、イーサンの後ろの窓が開いた。窓の前にいた男二人が振り返ると、風が吹き始めた。
「あ、シェ、シェイラ悪かった!謝る!静かにする!だから頼む!」
「シェイラちゃん!ごめんなさい!アルスはいいけど僕だけは!」
「お前汚ねぇぞ!」
謝罪と口喧嘩が入り混じる。
だがシェイラは意に介さず、風をさらに強めた。
二人の体が宙へ浮き、そのまま窓の外へ押し出された。
「まずいまずいまずい、言い合いしてる場合じゃねぇ!」
「シェイラちゃん!本当にごめんなさい!もう言い合いしません!」
「俺も!悪かった!静かにします!」
窓枠にしがみつき、必死に耐える二人。
それでもシェイラの笑顔は崩れない。
「懲りない人には、躾が必要ですよね」
そう言って、指を一本立てる。
笑顔がふっと消えた。
「あ、終わった」
「シェイラちゃん、考え直して!お願い!」
指が天井へ振り上げられる。二人の体は、空へと持ち上がった。
叫び声が響く。それは次第に遠ざかっていった。
シェイラは窓へ歩み寄る。落ちてくる二人を静かに見下ろした。
「あーーー!助けてくれ!悪かった!俺が悪かった!」
「シェイラちゃーーーーん!許してーー!」
「はぁ、いいでしょう」
(地面にぶつかるっ!)
アマリリスは反射的に目を逸らした。
だが、衝撃音は聞こえない。恐る恐る見ると、二人は地面すれすれで止まっていた。そこへソルーナが軽い足取りで近づく。
目の前で止まり、「にゃ〜」と鳴いた。
「うっ」
「痛っ」
ドスン、と二人の体が地面へ落ちる。ふらふらと立ち上がり、戻ってくる二人。
「すみませんでした」
「ごめんなさい」
揃って頭を下げた。
シェイラは何も言わない。だが怒りは収まったようだった。
アルスの前へ皿が飛んでいく。その上にはアップルパイ。
「え、アップルパイ……いいのか?」
「まあ、わたしも見ていて止めませんでしたから。それは本当に最後の一つですからね」
「ありがとうシェイラ!お前やっぱり良いやつだよ」
「調子のいいことばかり言って。いいから静かにしていてください」
(アップルパイであんなに笑顔に……)
「アルスだけず─」
「イーサン、また同じ目に遭いたいんですか?」
「はい、なんでもないです」
あれだけのことがあったにも関わらず、イーサンは懲りない。
しかしシェイラの一言で、すぐ借りてきた猫のように大人しくなる。
シェイラは椅子へ戻り、アマリリスへ向き直った。
「馬鹿二人も静かになりましたし、そろそろアマリリスさんの話を進めましょうか」




