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悪夢の魔女は星を宿す  作者: かなゑ
始まり

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19/28

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アマリリスは、再び驚きの目をイーサンへ向けた。

だが当の本人は、呑気にクッキーをかじっている。軽薄そうな男だ。

しかし、記憶の中の彼は違った。

あのとき感じたのは、底の見えない気配。

それにシェイラと同じく、イーサンは無詠唱で魔法を発動させていた。

魔法使いという存在は、多くの謎に包まれている。だが、まったく記録が残っていないわけではない。

遠い昔、魔法使いたちは今ほど姿を隠してはいなかったという。もっとも、現存する文献の多くは国家によって情報が制限されている。残っているのは、伝承に近い断片ばかりだ。

それでも一つ、共通する事実がある。魔法は言葉と共に発動する。


詠唱なき魔法など、どの記録にも存在しない。


(只者じゃない……)


「でも影の妖精より、花の妖精の方が強いんじゃないの?」

「間違いではありません。ただし、妖精の強さと人間に求める資質は別です」

「なるほど……?」

「妖精が契約者を選ぶ理由は様々ですが、魂の色との相性を重視すると言われています」

「魂に色なんてあるの?」


理解が追いつかない。

言葉は耳に届いているのに、意味がまとまらない。


「私にも見えるわけではありません。そういうものだと教えられただけです」

「そう……でも、どうして髪色が変わるの?」

「影の妖精の加護は契約者の身体や人格へ強く影響します。そしてイーサンの魔力は、すでに影の妖精のものと混ざり合っています」

「つまり、この髪色はその影響ってわけ」


クッキーを咀嚼しながら、イーサンが言った。

視線を向けると、ブロンドの髪が静かに黒へ染まり始めていた。


「まあ、普段は魔法で隠してるけどね」


相変わらずの軽い調子だった。数秒後、髪は完全な黒へ変わる。

理解はしている。これは呪いではない。

それでも恐怖は消えなかった。長い年月をかけて刻み込まれた常識は、そう簡単には崩れない。


「昔いた“呪いの子”たちも、僕と同じだった」


アマリリスの思考が止まる。


「え?」


短い沈黙。

そして、言葉が浮かぶ。


「──呪いの子に人生は与えず」


震える声で、アマリリスが言った。

それは、この国の掟だ。

呪いの子は不吉の象徴。レンツ王国では黒髪は禁忌だった。なぜそう呼ばれるようになったのか、今となっては誰も知らない。

それでも数百年に一度必ず生まれて、そのたびに処刑される。

まるで人類の敵でも見つけたかのように。


「でも僕はこの通り生きてる。だからまあ、気にしてないけどね」

「こちらとしては騒がしくて頭が痛いです。もう少し静かにしてください」

「またいじわる言った〜。前は優しかったじゃないか」

「チラチラ見ないでください。うざいです」


また言い合いが始まる。アマリリスは小さく息を吐いた。騒がしい空気の中で、思考がゆっくり整理されていく。

そしてある疑問が浮かんだ。


(待って……どうしてこの男は生きているのよ……)

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