18
「アマリリスさん、すみません。先ほどの質問には、今はお答えできません。……ですが、そう遠くない日に必ず」
相変わらず淡々とした口調だった。それでも、その言葉には誠意が滲んでいる。
返事をしようとして、アマリリスは気づく。
口が開かない。
(ちょっと! そこの馬鹿っ! 口をどうにかしなさいよ!)
身振り手振りで訴えるアマリリスを、イーサンはニコニコと眺めているだけだった。異変に気づいたシェイラが顔を上げる。
事情を察したのか、ふっと微笑んだ。その笑みのままイーサンへ視線を向ける。
次の瞬間、底冷えするような殺気が滲んだ。
「イーサン?」
「シ、シェイラちゃん、なに?」
「今すぐ解きなさい。さもないと──」
「わ、わかった! ごめんなさいっ!」
「わかってくれれば良いんです」
殺気は消え、シェイラは何事もなかったかのように笑っていた。
一方イーサンは、首根っこを掴まれた子猫のように大人しくなっている。
「アマリリスさん、もう大丈夫だと思いますよ」
「─ぁ、あ。本当に戻ったわ」
「どこかの馬鹿がすみませんでした」
「別に僕は悪くな─」
「イーサン、うるさいですよ」
「はい、すみません」
(……彼女に喧嘩は売らない方が賢明ね)
アマリリスは心の中でそう呟き、静かに誓う。
この魔女とは敵対しない方がいい。
「シェイラさん、さっきの話だけど」
「えぇ」
「偽りはないのよね」
「もちろんです」
魔法契約を結んだ以上、シェイラは嘘をつけない。
けれどそれがなくとも、アマリリスは彼女を信じただろう。
あの質問をしたときの表情を、確かに見たからだ。
「わかったわ。待ってあげる。でも、わたし気は長くないから」
「はい、覚えておきます」
アマリリスは肩をすくめる。
「それじゃあ気を取り直して、あの意地汚い男の話に戻りましょう」
毒のある言葉を軽く投げながら、イーサンへ視線を向けた。
「それで話を戻すけれど。さっきのお伽話と黒髪、どう関係があるのかしら」
「まず、五つの属性の妖精がいるとお伝えしましたよね」
「えぇ。花、火、影、風、水だったわよね?」
「その通りです。その中の影の妖精が、イーサンと加護契約を結んでいるんです」
アマリリスの視線が、即座にイーサンへ向く。
まさかこいつが、と顔が物語っていた。
イーサンはむっとする。
その表情のまま、アマリリスはシェイラへ視線を戻した。
「アマリリスさん、お気持ちはわかります。ですが本当なんです」
「あなたが言うなら本当なんでしょうね。でも……信じられないわ」
「はい〜? なんで君にそんなこと言われなきゃいけないのかな?」
「その気持ちもわかります。しかし事実なので、一旦飲み込んでください」
「シェイラちゃんまで!? 酷いよ! 僕ほんとに泣くよ!?」
「わかったわ。不服だけど、飲み込みましょう」
騒ぎ続けるイーサンの口へ、シェイラはクッキーを放り込んだ。
もそもそと文句を言いながらも、とりあえず静かになる。
「どの妖精と契約するか。それがとても重要なんです。妖精と一括りにされていますが、同じ呼び名でも性質は違います」
「教えてほしいんだけど、どう違うの? 想像がつかないわ」
「わたしは花の妖精と契約しています。人格や身体に影響はありません。ですが、イーサンは違います」
そこで、アマリリスは気づいてしまった。
「もしかして、それが黒髪と関係しているの?」
「さすがですね。影の妖精の力は、花の妖精とは別の意味で強力です。もしわたしが契約していたら…喰われていたかもしれません」
「えっ」




