表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢の魔女と死んだ恋  作者: かなゑ
アマリリス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/29

21

言葉を聞いて、ケイミーの口元に小さな笑みが浮かんだ。

彼女は片手を前に伸ばし、指を鳴らす。

すると、空中に水が生まれ、ゆっくりと量を増していった。


「水は源。命を繋ぎ、すべてを齎すもの。魂の番、アルスに水を宿せ。── べフューハイレンデアート」


水は意思を持ったかのようにうねり、アルスのもとへと流れていく。彼の正面で集束した水は、瞬く間に形を変え、一本の筆のような姿となった。

それを待っていたと言わんばかりに、アルスは勢いよく掴み取る。


「直してやるよ。お礼はうまい菓子でいいぜ」

「お、おいっ! な、なにするんだよっ!」

「黙って見てろって。三十秒で終わらせてやる。信じろよ」


子どもとは思えない、有無を言わさぬ不気味な圧。

ゴーグル越しに交わる視線が、ひどく重く感じられた。

静かな緊張が場を満たし、アルスが動く。


「始めるぞ」


その言葉と同時に、目にも止まらぬ速さで筆を走らせる。

何もなかった空間に描き出されたのは、人の骨を思わせる輪郭だった。


「とても……綺麗だわ」

「綺麗、ですか。あれを子どもが使うなんて、本来ならあり得ないことなんですけどね」

「そうなの? ずいぶん簡単に使っているように見えるけれど」

「アマリリスさん。魔法は無限ではありませんし、普通は相応の反動がきます」

「反動……どんなものがあるの?」

「人それぞれです。わたしなら、少し疲れる程度ですね。ですが─」


シェイラは、二人から視線を外さずに続ける。


「─あの子たちのものは、見ていればすぐにわかりますよ」


その言葉を裏づけるように、アルスは筆を止めた。


「エンデ」


次の瞬間、骨が突き出ていたはずの足は、すっかり元通りになっていた。

最初から怪我などなかったかのように。


治療された男は、口を開けたまま動けずにいる。

その背後で、二人の子どもはゴーグルとアイマスクを外し、大声で誰かを呼んだ。


「おーい、ベラ姉!」

「ベラー! 早く来て!」


廊下から、慌ただしい足音が近づいてくる。


「こらっ! シスターベラって呼びなさいって、いつも言ってるでしょ!」

「いいじゃん。もうこの呼び方で慣れてるんだから」

「ほんとよね。それより、この人治ったよ」


部屋に入ってきたのは、二人より少し年上に見える少女だった。

叱る口調とは裏腹に、その表情にははっきりとした心配が滲んでいる。


「……また鼻血出てるじゃない。二人とも。本当に大丈夫なの? 無茶はしないでって、いつも言ってるでしょ」


その言葉どおり、二人の鼻には赤い筋が走っていた。

しかも、先ほどより明らかに顔色が悪い。


──なるほど、とアマリリスは思う。

“見ていればわかる”とは、こういうことか。


「あれが…反動なのね」

「ええ。一時的な貧血でしょう。特に、ケイミーのほうが重いですね」


確かに、ケイミーは今にも倒れそうな顔色をしている。


「大丈夫よ! ベラ姉が心配しすぎなの」

「そうそう。これくらいが、ジャジャ馬ケイミーにはちょうどいいんだよ」

「なによ! アルスだって、少し弱るくらいが可愛げあっていいんじゃない!?」

「俺はいつだって、可愛げしかないね」

「もう! 二人とも静かにしなさい!」


ベラは深く息を吸い、きっぱりと言い切った。


「今日はこれ以上の治療は禁止。いいわね? 代わりに、シスターたちの手伝いをしなさい」


叱られた二人は、揃って拗ねたような顔をしながらも、渋々と頷く。

そして放置されていた男のもとへ、重たい足取りで戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ