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アマリリスは、確信に近いものを抱いていた。それでも実際に目にしたことで、やはりそうなのだと腑に落ちる。汚れが落ち切らず、ほつれの目立つ服。とても健康とは言い難い、貧弱な体躯。他にも要素はあるが、二人の姿を見れば推測は容易だった。
「とりあえず、あの二人を追いましょうか」
「わかったけど……追って、何がわかるの?」
ここが現在ではないことは、すでに理解している。だが、なぜこの場面を見せられているのか、その意図までは掴めず、アマリリスは思考を巡らせる。そうしている間に、二人は修道院からさほど離れていない建物へと入っていった。
「わたしたちも入りますよ」
「ちょっと、そんな堂々と入って大丈夫なの?不審に思われたらどうするのよ」
もっともな疑問だった。
「大丈夫ですよ。そもそも、ここを何処だと思っていますか?」
「どういう意味?場所のこと?それとも時間?」
質問の範囲が広すぎて、アマリリスは戸惑う。アルスが少年の姿をしている時点で、常識はすでに通用しないと理解してはいるが、それでも整理が追いつかない。
「どちらも含みますが、それ以前の話です。この場所そのものの“在り方”ですよ。気づきませんか。この場所と、わたしたちとの齟齬に」
「齟齬……?」
促されるまま、改めて周囲を見渡す。だが、すぐには答えに辿り着けない。
「まず、わたしたちの服装です。それから、この場にしては、あまりにも清潔すぎる」
「あ……」
指摘されて、ようやく気づく。確かにこの場所で、アマリリスとシェイラの姿は異質だった。それにもかかわらず、誰からも声をかけられない。それどころか、視線すら向けられない。普通であれば、あり得ない。
身綺麗な女が二人もいれば、注目されないはずがないのだ。
「ここは……どこなの」
「アルスの記憶の中です。記憶は視ることはできても、干渉することはできません。この世界の人間や物に対しては、ですが」
「だから、誰もこっちを見ないのね」
「そこにいない存在を見ることは、できませんから」
理屈としては理解できても、現実味がなく、アマリリスはすぐに呑み込めずにいた。何度か周囲に視線を走らせるが、状況は変わらない。
「そろそろ行きますよ。いくら見ていても変わりませんし、大事な場面を見逃してしまいます」
「……ええ、わかったわ」
先を行くシェイラに続こうとして、アマリリスは足を止めた。シェイラは門扉を開けることなく、そのまますり抜けていったのだ。
「……っ」
説明されたばかりだとわかっていても、あり得ない光景に息を呑む。すると、門の向こうから手だけが伸びてきた。
「きゃっ!」
思わず声が漏れる。だがすぐに、顔も現れ、シェイラが手招きしていた。
「急いでください」
心臓が早鐘を打つ中、意を決して門をくぐる。抵抗はなく、身体はすり抜けた。恐る恐る目を開けると、そこには最初に見た施療院より、少しだけ小さな建物があった。
シェイラを追って中へ入る。並んでいるのは、ずらりと配置されたベッド。その光景自体はありふれているが、横たわっているのは、例外なく病人ばかりだった。
「ここは……病室?」
「はい。あの二人は、ここで治療の手伝いをしていました」




