楽しい旅行
検査の結果は問題なかったのですぐに出発することにした。
「王宮に馬車を準備してあるから、またあっちに行って馬車を乗り換えるよ。」
「監視の人もあっちで合流するんですね。」
「そうだね。1人は私だが、あと1人つけるらしい。誰なのかは聞いていないのだが。」
1人がマリウスなら知った相手なので気を遣わなくて済みそうだ。
「監視といっても君たちが逃げ出すとかは思っていないから。他国の者たちが接触しないようについていくだけだからあまり警戒しないように。」
「「はい、わかりました。」」
王宮に着き、すぐに準備してあった馬車に乗り換えた。馬車は当然家紋もないが、見た目はかなり質素だ。しかし中は随分と豪華な造りだ。
「シェスナに戻るにはそれなりの長旅だから馬車はいいものを用意させてもらったよ。マリウス君、護衛は任せたよ。」
「は、かしこまりました。」
マリウスはドミニゴに敬礼する。
「ねえ、今護衛って言った?」
「はい、そう聞こえました。」
マリウスもそう聞こえていたが、あえて突っ込み入れなかった。そもそもこの2人には護衛はいらないだろうと思っているからだ。
「お待たせしました。それでは出発しましょう。道中宜しくお願いします。」
冒険者風の格好をした青年=ディオデールが城の中から出てきた。
「こ・・・皇太子殿下!?」
「いや、僕はただのディオだ。よろしく頼むよ。」
ニコニコしてディオデール・・・ディオは馬車に乗り込んだ。
「さあ早く出発しよう!日が暮れてしまうよ。」
「もう1人の監視の人って・・・」
「そのようですね。」
3人も急いで馬車に乗り込み、すぐに出発した。
「いやぁ、嬉しいな。王宮から出られるなんて随分と久しぶりだ。」
まるで遠足に行くかのように喜ぶディオを3人は何とも言えない表情で見ている。
「殿下・・・何故殿下がいらしたのでしょうか?」
「殿下じゃないよ。今の僕はディオだ。そう呼んでくれ。」
「確かに私も冒険者の服に着替えろとは言われましたがまさか殿下が・・・」
「殿下じゃない!ディオだ。」
「えーと、ディオはどうして一緒に来ることになったんですか?」
「父がこれを機にマサトとトモーミと仲良くなってくるようにと出してくれたのだ。それに国民の暮らしを見るいい機会だって。」
「国民の暮らしですか。」
「ほら、先ほど父が言ったように僕の上の兄弟たちはみんな亡くなってしまっているからね。だから周りが過保護になってなかなか城から出ることが出来なかったんだよ。でも2人がいれば安心だって。ついでにマリウスもいるし。」
「私はついでですか。」
「いや、頼りになるマリウスがいるし♪」
随分と調子がいい殿下だ。
「そうだ!僕とマリウスは兄弟という設定にしよう。うん、それが自然だね、マリウス兄さん。」
「ええ!?殿下、それはあんまりです。」
「だから殿下じゃないってば!さあ早く僕をディオって呼んで。」
「ディ・・・ディオ?」
疑問形だった。でも殿下は満足したらしい。
「何だい、マリウス兄さん!」
そのやり取りがツボに入ったのか真人がいきなり笑い出した。
「すみません。マリウスさんの困った顔が・・・その・・・ちょっと・・・」
「マサトー。それは何だ!?」
「いえ、いつも伺う時はキッチリと仕事をされているのでギャップがちょっと・・・」
「そういえば子どもの渡り人の件はどうでしたか?」
すぐに朋美が助け舟を出す。
「あああれか。やはり記録がなかった。」
「やっぱりですか。」
「やっぱりとは、どういう事かな?」
「それについても今はお話しできません。どうしても私が知りたいことが先なので。」
そう言われてマリウスはそれ以上聞くことはなかった。
「ところでこの速度で行くと今日はどこまでいけるのかな?」
「ロザリーヒルに着くのが夜になると思います。そろそろ馬を休ませて昼食も」
「馬を風魔法で押しましょうか?追い風みたいで早く進みますよね。」
窓から顔を出して軽く風魔法をかける。馬車は少しだけスピードが上がった。
朋美の風魔法のおかげか日が暮れる前にロザリーヒルに着くことが出来た。一番いい宿をと言われたが、一般の冒険者ではそんな宿には泊まれないと二番目にいい宿にしてもらった。それから食事をとる為に街へ繰り出した。ここでもディオは大はしゃぎだった。
「どこに入るのだ?何が食べられるのだ?」
「そんなに物珍しそうにしていると田舎者だと思われますよ。」
注意をされて急にディオは大人しくなった。
「なあ、あそこからいい匂いがしてくるが、あれはなんだ?」
「ああ、串焼きですね。あの店にしますか?」
「いいのか!?」
目を輝かせて言う。まるで子供のようだ。
4人掛けの席を取り適当に注文をする。
「エールを・・・4杯でいいかな?ディオ、飲めるか?」
「大丈夫だよ、兄さん!」
ワクワクしながら他の客の料理を眺めている。
「あれは何?」
「あれは多分魔魚のフライですね。」
メニューを取って見てみる。
「あれも食べてみたいな。」
「魔魚はとっても美味しいですよ。ミューズ領の真ん中にある湖でよく捕れるんですよ。」
「そうなのか!?ミューズで魔魚が捕れるとは聞いていたけど、湖で捕っていたのか。」
「明日途中で捕って焼いて食べましょうか?」
「そんなことも出来るのか!?」
「冒険者や私たちは食料を現地調達することがありますからね。でもこの湖だと漁をするのは大変だろう?」
「いい方法があるんですよ。私たちに任せて下さい。」
「トモさんの一本釣りですね。見ていても楽しいですよ。」
「そうか?明日が楽しみだな。」
そう言っているうちにエールが届いた。マリウスは一気に飲み始めた。それを見たディオもまねをして飲む。
「トモさんいいですか?」
「いいわよ。」
2人の手が止まり朋美に注目する。朋美はグラスを両手で多い魔法を使い始めた。グラスの表面に薄っすらと氷が張る。
「何?そうすると美味くなるのか?」
「冷たいと美味しいですよ。飲んでみます?」
真っ先にマリウスがグラスをとって飲んでみた。ゴクゴクゴク、喉がなる。
「プハー、これは美味い!冷やすだけでこんなに美味くなるのか!?」
それを聞いたディオは自分のグラスを差し出す。同じようにして手渡すとすぐに飲んだ。
「美味しい!さっきのと全然違う!絶対にこっちがいい!」
自分のエールをマリウスに取られた真人は追加のエールを人数分注文した。
翌朝早めに宿を出発した一行は昼食に魔魚をと休憩場所を探していた。
「あ、この辺は以前ウォーターサラマンダーに襲われたところですね。」
「そうだったわね。あの時はびっくりしたわ。」
「この湖にはウォーターサラマンダーがいるんですね。」
「そうなの。仲間がやられるのを見たら逃げちゃったのよね。」
「逃げるんですか、あれは。」
魔物が逃げ出すなんてあまり聞かない話らしい。
「しかしマサトと出会ってもうすぐ1年か。トモーミもそうだが、こんなに急激に強くなるとは思っていなかったよ。」
確かに1年で一気に6つもランクが上がるなんて普通ならあり得ないことだろう。渡り人の能力の高さゆえの事だ。
「この辺りがよさそうね。はい真人。」
収納から網を取り出し真人に渡す。そして魔剣に魔力を流し湖の上に持って行く。
あっという間に魔魚が集まり我先にと魔剣に向かって飛びかかってくる。それを真人が網ですくう。
「何ですか、その魔魚の捕り方は!?」
マリウスがびっくりしている。
「マリウスさんも魔剣持ってましたよね。やってみますか?」
折角なのでとマリウスもチャレンジすることにした。魔魚はびっくりするほどよく捕れた。
「これは面白い!こんな方法で簡単に捕れるなんて知りませんでした。」
あまりにたくさん捕れるので、マリウスは面白くて夢中になっていた。
「僕も!僕もやりたい!」
「ディオは魔剣を持っていないじゃないか。」
「兄さんのを貸してよー。」
本当の兄弟のようにやり取りをしている。
結局ディオは魔法剣士の適性がないので釣る方は出来なかったが、網ですくって捕っていたのでそれなりに楽しかったらしい。それを焼いてみんなで食べた。
「美味しい!塩をつけただけの魔魚がこんなに美味しいなんて知らなかった!」
「こんな方法でこんなに沢山取れたら漁師が廃業してしまいますね。みんなには内緒にしておかないと。」
「そうですね。でもあんまり釣れるからって油断してると魔魚に魔剣をとられちゃいますよ。」
「それは大変だ!ほどほどにしておかないと。」
マリウスは非常時以外にするのを止めようと思った。
その後は馬車を飛ばしたので夜にはラコンに着いた。
「そういえばラコンって初めて来るんだったわよね。」
「ラコンに泊まったことはないのかい?」
「はい。いつもマストからロザリーヒルまでは身体強化して歩いてるんですよ。どうせ馬車に乗っても簡易宿泊所でテントを張るので野営をしているのと変わりませんからね。自分たちだけの方がほかの人に気を使わなくていいですし。」
「そうか。確かに定期馬車にずっと乗っているのは疲れるからな。それで足腰が鍛えられていたんだな。」
「定期馬車ってそんなに乗り心地が悪いのですか?」
「お尻が痛くなりますよ。」
普段ふかふかの椅子に座って移動しているディオには想像もつかないのだろう。
ラコンは漁師町だ。漁師の家のほとんどが湖で魔魚をとって生活している為、あまり裕福ではない。ただラコンからロザリーヒルへ向かう為に宿泊することが多いため、宿屋はそれなりにある。しかし町には活気がない。
「この町で一番いい宿はここになります。申し訳ないのですが、部屋が3つしか取れず、私とマサトの相部屋になりますがいいですか?」
「僕がマサトと相部屋したい!」
「しかし・・・」
「マサトと仲良くなりたいのだ。協力してくれ。」
マリウスに耳打ちをする。
「わかりました。マサト、ディオをお願いするよ。」
「はい。では部屋へ行きましょう。」




