王様と謁見
真人はスーツのような服装だった。濃紺の上下に蝶ネクタイ、襟や袖口には豪華な刺繍が施してある。朋美は胸元がシースルーの柄は少し控えめなオレンジのドレスだ。
「トモさんは何を着ても似合いますね。」
「何言ってるのよ。真人こそかっこいいわ。その服すごく似合ってるわ。」
まるでバカップルのような会話だとマリウスは呆れて見ていた。
「ゴホン、そろそろいいかな?」
「「はい、お願いします。」」
マリウスに連れられて2人は馬車に乗り王宮へ向かった。馬車は王室の物できちんと王家の家紋が付いていた。
「ああ緊張するな。」
「マリウスさんでも緊張するんですか?」
「王家の家紋入りの馬車に乗ることなんて私みたいなものには一生あり得ないからな。」
「ええ、そんなに凄い事なんですか!?」
「そうだ。隊長たちなら護衛であり得るが、自分たちのような下の者は親衛隊に交じって護衛につくだけでも栄誉なことなんだぞ。」
「そうですか。」
「そしてそんな馬車で迎えらえるという事は、それだけ君たちが国にとって重要な人物だという事だ。」
その一言で身が引き締まった。どんな話になるのかある程度の予想はついているが、相手にのまれないように気を付けなければと2人はアイコンタクトをとった。
それからしばらくして馬車は王宮に着いた。3人は馬車を降り、長い廊下を通って中庭にあるガゼボへ案内された。
2人は椅子へ座るよう勧められたので腰を下ろした。マリウスは案内が終わってそのまま中庭を出て行った。暫くすると王が1人の男性を連れてやってきた。2人はすぐに席を立ち、2人に頭を下げた。
「あ、違った!」
と朋美は小声でいい、慌ててカテーシーに切り替えた。
「気を遣わずともよいぞ。」
そう言われて頭を上げた。
王ともう1人の男性が椅子に座り、続いて2人も椅子に座った。同行した男性は20歳前後だろうか。恐らく王族の誰かだろう。
「昨日の件は申し訳なかったね。フランチェがあんなことを企んでいたとは。そしてそれを気づけなかったとは王として情けない。2人には謝罪の言葉が見当たらない。」
一国の王が頭を下げた。
「そんな!謝らないで下さい。王様のせいではありません!」
「そうです。王様が責任を感じることはありません。」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。」
王はすぐに頭を上げた。
「ところで2人は一緒に来た渡り人と聞いているが、それは間違いないのかな。」
「はいそうです。正確には3人でこちらに来ました。」
朋美と真人はこちらに来た時の様子を話した。
「そうか、魔法陣の中にいれば誰でも渡ってしまうのか。」
王は初めて聞く話を熱心に聞いていた。一緒にいる男性も頷いている。
「あの・・・ところでこちらの方は・・・」
「おうそうだった、紹介が遅れて申し訳ない。これは私の息子で次の王になる者だ。」
「ディオデールと申します。」
金髪に深い緑の目をした青年が挨拶をした。
「この通り、私の次はこんなに若い者が王になるのだ。だから戦争になるのではと皆が不安に思っているのもわかっておる。」
恐らく王は70歳位だ。
「色々あって私の子供は次々と亡くなっていてね。残っているのはこのディオデールと妹のエフェルディアだけなのだよ。それで歳の近い君たちにお願いがあってね。」
きた!これこそ王が2人を呼んだ理由だ。どんなお願いをされるのだろうかと2人はハラハラしながら聞いた。
「私の子供たちと、特にこのディオデールと仲良くして欲しいのだよ。出来ればずっと。」
「それは何かの要職に就けと言う事でしょうか?」
「ふふふ、確かにそうしてもらえればありがたいのだがな。フランチェがやったように眷属の首輪をつけて国の為に働いてもらうというのが手っ取り早いのだろうが、そんなことをしてもいい事はないからな。」
戦争を乗り越えてきた王は力の加減を分かっているようだ。
王が手を上げると従者がさっとガラスケースを持ってきた。その中には壊れた眷属の首輪があった。
「まさかこれを壊すものが現れるとは思ってもいなかったぞ。これからこれを使って戦争が起こらないようにするので、トモーミの名前を使わせてもらうぞ。それはいいかな。」
「名前くらいなら・・・」
そう言ってハッとした。名前を使って戦争を回避するとは、恐らくこの国の民であることをアピールするのだ。
「それでは彼女の身分をどうにかするのですか!?」
すぐに気が付いた真人が尋ねる。
「はは、察しがいいな。君たちにはきちんとしたこの国の国民になってもらいたい。その為には身分を、場合によっては良き伴侶を与えたい。」
「ちょ・・・ちょっと待って下さい。渡り人でもこちらで生活するための身分証を作りました。それではだめなのですか?」
「君たちが渡り人だと他の国から何かしらの接触があり、それなりの報酬で行ってしまう事があるからな。戦争を回避する意味でもこの国に留まってもらいたいのだ。」
「・・・その気持ちわかります。」
黙っていた朋美が口を開いた。
「私達って何の前触れもなくここに来ました。だからここが母国とか愛国心とかが全くないんですよね。もし生活するのが精いっぱいなら他の国でいい待遇で暮らせるよって言われたらきっと二つ返事で行っちゃうもの。」
急にその場が静かになった。
「それはすでに他国から誘致を受けているという事かな?」
「いえ、そのようなことはありません。あくまで可能性の話です。」
「そうか。しかしこの首輪を使って我々が外交を始めると間違いなくそのような事が起こるだろう。その時私たちは何をすれば君たちを引き留めることが可能なのだ?」
逆に材料を出して欲しいという事らしい。
「少しお時間を頂けないでしょうか。どうしても今知りたいことがあるのです。」
「ここにいては分からないことかな?」
「はい。」
「そうか。では監視もつけるがよいか?」
「・・・構いません。」
その言葉を聞いた王は安心したのか、表情が柔らかくなった。手を叩きメイドを呼び、茶菓子を持って来させた。
「硬い話ばかりでつまらなかっただろう。少し甘いものを食べようではないか。」
メイドが持ってきたのは紅茶とクッキーだった。クッキーはキャラメルが練り込んであり、無糖の紅茶によくあった。
「そういえば、眷属の首輪は始まりの魔女が作ったのですよね。」
「そう伝わっておるが、それがどうかしたのかな。」
「魔女の事を書いてあるものは何かありませんか?大陸の歴史書を読んでいて少し気になったので、もし魔女についての記録が載っているものがあれば読みたいのですが。」
「それについては後日でいいかな。」
「はい。宜しくお願いします。」
「トモさんそんなものどこで読んだのですか?」
「コルデソン家の図書室でね。」
「そうだ!あそこでどんな扱いを受けていたのですか!?」
急に思い出したように真人が叫んだ。大きな声に周りのものは驚いた。
「す、すみません。酷い扱いを受けてないか気になっていたもので・・・」
「行動に制限があっただけで酷いことはされてないわ。それよりも真人の方が酷い目にあったんじゃないの?」
「それは・・・」
「やっぱりそうなのね。」
「いえ、魔物がいない島に魔物調査で行っていただけですよ。」
「本当にそれだけ?」
「・・・後はこっちに戻ってきて牢に・・・」
「ああ、そうだったな。その件で第一隊のものすべてに事情聴取をした。いるか。」
「はい。」
さっとドミニゴがやってきて、事の顛末を報告した。
「コルデソン家の娘は2人とも第一貴族に嫁いでいます。その伝手で眷属の首輪を不正に持ち出したようです。」
「そうか。バカな男だ。欲が深すぎたのだな。今回の件でコルデソン家は第五貴族に降格させた。本来なら取り潰しの事案だが、あれでもそれなりの功績は残しておるからな。」
「あ・・・」
「どうしたのだ?」
「いえ、あそこでオーダーメイドのドレスを発注したんです。出来上がったらどうしようかと思って。」
「そんなもの、コルデソン家に支払わせればよい。迷惑料だ!ドレスは王室で受け取っておくので取りに来るが良い。」
迷惑料だなんて庶民的な発想に吹き出しそうになった。
「それで2人はいつここを発つのだ?」
「これから救護室に戻って検査を受けます。それで問題がなければすぐにでも出発したいのですが」
「そうか。ではすぐに馬車と同行するものを準備させよう。ドミニゴ、家紋のない馬車で一番いいものを。」
「かしこまりました。」
「ではトモーミとマサト、出来るだけ早くいい返事を期待しているよ。」
そう言って王と皇太子のディオデールはその場から去って行った。
「では私たちも行きましょうか。」
「そうね。早く戻りましょう。」
入れ違いにマリウスがやってきて、3人で救護室がある訓練施設へ戻って行った。




